2021年6月23日
昨日はパウエルFRB議長の議会証言があり注目された。結果はサプライズなしであったが、市場が注目したのには理由がある。
2013年に勃発したテーパータントラムの第一波もFRB議長議会証言の場で起こったので、市場には未だにトラウマが残るからだ。
5月22日のことであった。当時のFRB議長バーナンキ氏は、まず事前発表声明文で「QE(量的緩和)縮小は時期尚早」と述べていた。市場は安堵して株高で反応した。しかし「議員との質疑応答」になるや事態は一変。「マクロ経済環境次第だが、in the next few meetings(次回または次々回)のFOMC(米連邦公開市場委員会)で資産購入縮小もあり得る。」と発言。super dove(超ハト派)と言われた同氏が「QE縮小」について具体的かつ詳細に語るシーンに市場は絶句した。声明文で「QE継続モード」に入っていた市場にしてみれば、一瞬耳を疑うほどの「変身」だった。株価はリーマンショック以来と言われるほどの急落を演じた。
そして第二波が6月19日に勃発。6月FOMC後の記者会見で「これはシナリオであり、政策決定ではない」と断った上で「later this year(今年後半)には資産購入ペースを減速。慎重に段階的に来年前半には資産購入減額を継続。そして来年半ば頃に終了。」と具体的緩和縮小スケジュールについてより具体的に語ったのだ。
しかも経済見通しの下振れリスクについてdiminished(減った)という、これまでには使われなかった単語で明確に表現したので、FRBが楽観的である印象を市場に与えた。緩和縮小の前提条件である米国経済の持続的回復について強い自信を見せたわけだ。このFRB流の用語の使い方は今後の参考にもなる事例だ。
因みに2013年3月に発表されたドットチャートでは、年内利上げ派が1人、14年利上げ予測者が19人中5人。15年利上げ予測者は19人中18人に上っていた。
なお、FOMCの決定は10対2の多数決であった。その2人の反対者の1人が、先週18日に利上げ前倒し発言で米株価急落を誘発させたブラード・セントルイス連銀総裁であることも興味深い。
なお、このテーパータントラムに関しては、以下本コラムのアーカイブを参照されたい。当時の金価格は1400ドル前後、4000円台であった。
2013年5月23日付け「QEなき世界に身構える市場」
2013年6月20日付け「株安、債券安、円安、商品安で反応した市場」
そして2021年6月。市場はミニテーパータントラムと言われるほどの変動に見舞われている。金も巻き込まれ1800を割り込み、大きな反発もなく模様眺めだ。
FRB議長の市場とのコミュニケーションも今にしてみれば当時のバーナンキ議長は根回し不足だったように思える。現在のパウエル議長も就任直後は「お騒がせ発言」もあったが、その後は如才なく切り抜けてきた。
とは言え、FRBの資産規模はバーナンキショックの頃に比し、国債・住宅担保証券購入継続により8兆ドル台まで肥大化している。その間のFRB資産圧縮の過程では若干減ったのだが、思わぬコロナ禍で未曽有の規模にまで膨れ上がってしまった。ここまでくるともはや「資産規模が大きすぎて減らせない」状態だ。FRB保有国債の満期分の再購入を止めることで徐々に減らしてゆく、というイエレン議長時代の資産圧縮法ではもはや手が付けられない。かと言ってFRBが保有米国債の売却開始とでもなれば、ドル長期金利は一気に急騰するリスクがある。市場の視点では過剰流動性相場という状況は変わらない。溢れかえる過剰流動性は米短期金融市場にも流入。マイナス金利も誘発しかねず、FRBはマネーの交通整理に追われている。
テーパリング開始で一時的に市場が混乱してもマネーがリスク資産、そして金に向かう傾向は変わるまい。金融当局としてはSEC(米国証券取引委員会)と金融安定化のための規制を強化する方向に動かざるを得ない。既にビットコイン暴騰暴落、個人投資家共闘マネーの乱、アルケゴス問題、SPAC(空箱投資)など過剰流動性の落とし子の如き異常現象に警戒の目を光らせている。モグラ叩きの如く当局と投機家のせめぎ合いが続く。
今回のテーパリングは長期戦になりそうな様相だ。
金も当面、まだ地合いは脆弱だ。