豊島逸夫の手帖

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ニクソンショックから50年  

2021年82

毎年この季節になると経済メディアではニクソンショックが懐古される。ニクソン大統領が突然米ドルと金の交換停止を発表してから、はや50年。金の裏付けのない米ドルは紆余曲折があったが、結局国際基軸通貨としての地位を保っている。米ドル覇権と言われるが、米ドル以外には国際基軸通貨となり得る通貨はない。世界の貿易決済も米ドル抜きでは成り立たない。米国がどれだけ赤字を抱えようと市場はドルを「安全通貨」と見做し、「米国債」を安全資産としている。

金はドルの価値の裏付けであったが金本位制は過去の遺物だ。
但し、全く価値の裏付けのない米ドルはただの紙切れに過ぎないとの危惧も根強く、せめて世界の中央銀行は金を外貨準備の一環として買い増してきた。

今後の通貨制度はデジタル通貨を志向している。まだ実験段階だが通貨の交換手段としてデジタル通貨は極めて有望である。しかし価値の保存手段としては歴史が浅く未知の世界にある。対して金の価値保存機能は歴史も長く確立された実績を持つ。「デジタル通貨」対「金」という対立の構図ではなく、それぞれの機能に特化して共存する世界になってゆくと感じている。

なお、国際基軸通貨に関してはノーベル経済学者マンデル氏が提唱した「最適通貨圏構想」が最も現実的な選択肢だと思う。世界共通の通貨など分断された世界の中で望むべくもない。
欧州はユーロ、米大陸は米ドル、アジアは人民元か円か、そして中東は「金」。そもそもユーロは最適通貨圏構想を理論的支柱として生まれた地域統一通貨だ。マンデル教授もその功績でノーベル賞を受賞した。日本にとっての問題はアジアの地域統一通貨構想だ。長期的には人民元に軍配が上がりそうだが、それでは米国が黙っていまい。かと言って円がアジアの地域統一通貨とは許容されないであろう。未だアジアも米ドル通貨圏という状況が続きそうだ。

民間の国際金融の世界では「日本を除くアジア」と「日本」が分離されて扱われる傾向がある。日本が独自の経済圏を構築する時代が来るとも思えないが、日本円の地位は将来的にどのような道を辿るのか興味深いところだ。

2021年