豊島逸夫の手帖

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2022年、金相場はどうなるか。個人投資家はどう考えるべきか。

2021年112

ずばり結論から言えば、パウエルFRB議長を信じられれば金は売り。信じられなければ金は買いだ。

基本的な市場の構図を見るに、金市場は利上げという金利を生まない金には強い逆風と言える売り材料とインフレという実物資産の金には強い買い材料の対決の場となろう。
その場の仕切り人こそパウエルFRB議長。

米国の消費者物価上昇率が年率5%を超える状況の中でこのインフレは一過性、2022年以降には年率2%台に収斂してゆくと論じてきた。ところが足元でインフレ鎮静化の兆しは見えず、市場では生産制約由来のインフレは長期化必至との見方が増えている。
さすがのパウエル氏も議会公聴会の場で「想定より長引いている」と認め、珍しく感情をあらわに「不快な現象だ」と苦々しげに語る一幕もあった。

FRBの基本的スタンスは年率2%以上のインフレのオーバーシュートは許容範囲内とする。これまでディスインフレの時代が長かったので、インフレ上振れの時期が長引いても当然との見解だ。
そこで金融政策も基本的に緩和姿勢を維持してきた。但し「経済の有事対応策」とされる量的緩和の必要性は徐々に薄まるとの判断で、緩和量(毎月の国債・住宅担保債券購入額)は減らしてゆく方針だ。所謂テーパリング即ち量的緩和縮小である。これこそ2021年の市場最大トピックでもあった。

しかし、テーパリングと言えどFRBの緩和バイアスは変わらない。
2022年はFRBが更に一歩踏み込み、いよいよ金融政策を緩和から引き締めへ方向転換する年となろう。
具体的には利上げという本丸に向けて、まずFOMCで議論を深化させよう。そのためにはテーパリングのプロセスを年央にも切り上げ、年後半には利上げスケジュールについてFOMC内のコンセンサスを形成してゆく。ここはまとめ役としてのパウエル議長の腕の見せ所だ。
同氏はこれまでFOMC内のハト派とされたが、2022年はタカ派に転じる、或いはタカ派の意見をこれまで以上に重要視することになりそうだ。

市場目線で気になるのは果たして2022年中に利上げを開始するのか。するなら1回か2回か。
コロナからの経済回復や生産ひっ迫状況の改善などを視野に慎重に金融政策の舵を取らねばならない。

何せコロナというこれまで体験したことがない異常な状況下からの出口を模索することになるので、パウエル氏も海図なき海域の航海を強いられる。キャプテンパウエルが舵取りを少しでも過てば、市場は一気に混乱に陥るリスクを孕む。
利上げ開始決定が早過ぎれば景気の腰を折る結果になる。慌てて利上げ計画を撤回すればパウエル氏の信頼性は地に落ちるだろう。
逆に利上げが後手に回れば経済は過熱。インフレ、或いは最悪スタグフレーション(物価上昇と経済減速の同時進行)というシナリオも無視できない。
早過ぎもせず、遅きに失することもなく難所の海路を乗り切れば、パウエル議長への信頼感はこれまで以上に強くなる。「困った時のパウエル頼み」、「FRBには逆らうな」とこれまで市場では語られてきた。それが「パウエル様、神様」と崇められるかもしれない。

市場もそして政権も勝手なものだ。自分たちに都合が良ければ奉り、敵役と見れば謗ることも厭わない。2021年にはパウエル議長を「危険人物」とまで断じた政治家もいた。民主党内急進左派の主導的立場にあるウォーレン上院議員だ。まずパウエル氏の金融システムに対する監視・制御が緩いと語気強く批判。更にFOMC参加者である地区連銀総裁たちの個人的株式投資を事実上認めてきた倫理規定に嚙みついた。パウエル氏自身の個人的保有投資信託の売却事例まで問題視した。パウエル議長再任問題に関しても明確に反対の姿勢を明らかにした。倫理規定に関してはFOMC内での議論に直接関与する高官たちが自ら株式投資に走るのは、いかがなものかという拒否反応がウォール街でも根強い。

その結果、ブレイナード現FRB理事などの名前が対抗馬として浮上している。パウエル議長再任が「ホワイトハウスも認める当選」から「当確」に格下げされた感も漂う。

市場目線でも緩和を主導する限りFRB議長はマーケットフレンドリー(市場の味方)だが、ひとたび利上げを口走れば瞬間的に敵役となる宿命にある。

2022年、市場の合言葉が「FRBには逆らうな」から「FRBを信じるな」になるのか否か。
後者なら悪性インフレのヘッジとして金の出番が増えよう。
前者ならゴールディロックス(適温経済)の実現も現実味を帯びる。インフレで熱過ぎることもなく、デフレで冷え過ぎることもなく株式市場には願ったりのシナリオとなり、ヘッジ役としての金の存在感は弱まろう。

2021年