豊島逸夫の手帖

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「謎の金利安」に市場動揺、株も金も大幅安

2021年6月21日

イエレン財務長官は、ロンドンで開催された主要7か国(G7)財務相・中央銀行総裁会合後、メディアに対し「10年ほどは、あまりに低すぎるインフレ、あまりにも低すぎる金利と戦ってきた」、「(正常な金利環境に)戻ることが望まれる」、「それは決して悪いことではなく、寧ろ良いことだ」と語った。金利高を正当化・容認する発言として市場では注目され、来るべきテーパリングにも腹を括り覚悟していた。
ところがFOMCの利上げ検討・タカ派姿勢が鮮明になった今、ドル長期金利は1.4%台に下落している。想定外の展開に市場は動揺している。
イエレン氏の説に従えば「今後もあまりに低すぎるインフレ、あまりにも低すぎる金利と戦う」ことになるのか。「望まれる正常な金利環境には戻れない」のか。金利安は「決して良いことではなく、寧ろ悪いこと」なのか。

今週はパウエルFRB議長を始め、多くのFOMC参加者が公的な場で発言するが、イエレン前FRB議長・現財務長官のご託宣も聞いてみたいものだ。「謎のドル金利安」を如何に説明するのか。

更に、米国市場の期待インフレを示す指標である10年ブレークイーブンインフレ率(BEI)が、6月15~16日に開催されたFOMC後に急落していることも不気味だ。

10年BEI.jpg

昨年末の1.99から5月には2.54まで上昇していたが今や反落傾向が顕著だ。

FRBはFOMC終了後に発表した経済レポートで、2021年のインフレ率予測を前回発表の2.4%から3.4%に引き上げた。しかし2022年は2.1%に落ち着くと見ている。
パウエルFRB議長は「年後半のインフレ傾向は一時的」と繰り返し述べているが、市場もFRBがインフレは抑え込むとの見方に傾いているとも読める。市場で人気が高かったインフレトレードも巻き返され、商品市場は全面安の展開である。

なお、18日のニューヨーク市場ではブラード・セントルイス連銀総裁のタカ派的発言が注目された。
しかし、冷静に見れば同氏以外にもFOMC参加者には22年利上げ予測者が6人いる。更に23年に2回の利上げを予測している参加者は計13人に上る。因みに同氏は今年FOMCでの投票権を持たない。
たまたま同氏の発言が18日現地市場寄り付き前の時刻に生出演の形で流れたので投機筋に格好の材料扱いされた感が強い。
ドル金利安と言っても、どこまでが市場の実勢を映すのか今しばらく冷静な見極めが必要であろう。

なお、先週土曜日の日経新聞朝刊「グローバル市場面」で筆者のコメントが「16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)が想定以上にタカ派的だったことが金の狼狽(ろうばい)売りを招いた」と引用されている。新聞記事は文字数が限られているので、活字にならなかった筆者の発言は「金に三つの売り材料。金利を生まない金に利上げは天敵。そしてドル高。更にインフレ期待盛り上がらず。」というもの。下げの速度が速かったので短期的に相場が崩れた。未だ要経過観察の段階だが1600~1700程度の水準は視野に入る。中長期的には2000ドルの見方に変わりはないが、タイミングがやや後ろにずれ込む可能性を見極めているところだ。

2021年