豊島逸夫の手帖

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アルケゴスの実態、パウエル議長が看破

2021年4月14日

パウエルFRB議長が11日米国地上波三大ネットワークCBSの「60minutes」という、時の人を招く1時間番組に出演。キャスターの質問に答え喋り続けた。FOMC後の記者会見や議会公聴会より遥かに発言の内容が濃く情報量も格段に多い。米国FEDウォッチャーたちは時間をかけジックリと長文の対談書き起こし原稿を精査している。

注目のアルケゴス問題もキャスターからの質問に答え、その実態を具体的に説明した。
「問題視されている株スワップは市場で普通に使われている売買手段」と断じた上で、「そのリスクを銀行は理解しているはずだ。各銀行が承知していなかったのは、この一人の投資家(ホワン氏という実名は出さず)がNY市場の5~6社と株スワップ取引をしていたことだ。各銀行はその事実を担保不足による強制売却処分の段階になって初めて知った。」
「率直に言って、驚くべきことだが(パウエル氏のこのような言い回しは極めて珍しい)一人の個人がリスクを理解しているはずの大手金融機関に巨額の損失を生じさせた。徹底的に調査する。」

これまで欧米メディアも、関連大手金融機関は3月25日に電話会議でホワン氏から債務不履行状態であることを告げられた段階で、初めて複数のライバル社の関与を知ったと報道してきた。それを裏付けるパウエル氏の発言である。

このデリバティブ商品の「匿名性」という特性により、ライバル銀行もホワン氏の取引残高が巨額に膨れ上がっていたことを察知できなかったわけだ。

報道ではモルガン・スタンレーのアルケゴスとの取引残高は円換算で2兆円超。ゴールドマン・サックスは1兆円超と言われている。
そしてアルケゴス関連銘柄売却処分は未だ終わっていない可能性も浮上しつつある。
今朝アルケゴス銘柄のひとつであるメディア運営のディスカバリー株をクレディ・スイスが売却との報道が時間外で流れたのだ。
「まだ残っていた、或いは残っているのか」
市場は疑心暗鬼である。

更に今日はゴールドマン・サックス、16日にはモルガン・スタンレーの決算発表を控える。アナリストからアルケゴス関連の質問が飛ぶのは必至だ。
特に問題視されているのはモルガン・スタンレー社のアルケゴス対応だ。
3月22日に同社が主幹事となるバイアコムCBS増資が発表され、同社は投資家に増資株を売り捌いた。
その増資発表から3日後の25日に先述の事態急変によりアルケゴス問題が発覚。
やはり報道によれば、真っ先に「抜け駆け」でアルケゴス銘柄大量売却の口火を切ったのも同社であったという。

結果的に1週間でバイアコムCBS株価は増資直前の100ドル台から40ドル台にまで急落した。その株価下落から生じる損失を抱えたのはモルガン・スタンレーなのか、投資家なのか。
同社社内の増資担当の引き受け部門とアルケゴスとの直接取引を担当するプライム・ブローカー部門の間に情報の共有はなかったのか。
「抜け駆けか否か」は未確認だが、同社の内部リスク管理体制は厳しく問われるであろう。

なお、興味深いのは大手金融機関との相対巨額取引(ブロックディール)で買い手に回ったのがヘッジファンドであったこと。ブロックディールでは売り手が割安の価格を呈示してくるので、買って、その後の価格反発期に売り抜こうとの目論見である。
一定の損失は覚悟の上で買い手に回るファンドもあるという。後日モルガン・スタンレーが別件のIPO主幹事になる時、当該IPO株を回してもらえるとの期待があるようだ。

過剰流動性を持て余す市場環境の中で生じたアルケゴス問題を利用して、更に一儲けを目論むヘッジファンド。貪欲なリターン追求は限りないようだ。

さて、昨晩のNY金市場は3月米消費者物価指数発表後、1725ドルから1750ドルまで急反発(KITCO24時間グラフの緑線参照)。

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年率2.5%の急上昇は想定内であったがドル長期金利が下がったのはサプライズ。金市場はドル金利急騰に身構えていたが肩透かしというか逆を突かれ、金利上昇を見込んで金を空売りしていた連中は慌てて買い戻しに走った。なお中長期的には物価上昇はインフレヘッジとしての金には買い要因となる。

更にジョンソン&ジョンソンのコロナワクチンが暫時接種停止に。
600万人超接種したところ18歳から46歳までの女性6名に血栓。一人重体。冷静に見れば100万分の1の確率で、その程度は覚悟の上なのだが、実際に起こってみれば心理的影響は無視できず。接種拒否が増えるリスクも。市場はワクチン相場ですっかり経済回復を見込む「陶酔相場」の中、米株価は史上最高値を更新していたので冷や水を浴びせられた感じ。ファウチ氏ら関係者は火消しに追われた。これは金にとっては買い材料となる。ドル金利が上がらず下がったのも、安全資産として米国債が買われたという要因もある。外為市場では米金利安のドル安。これも金買い要因。

このワクチン問題。日本にとっても他人事ではない。仮にワクチン接種が拡大する過程で一人でも副反応死亡例など出たら、ワイドショーをはじめ大騒ぎになるのは必至。1億人に接種、それも2回接種が含まれるとなれば、統計的にも副反応が出るのは当然だが、メディアを含めヒステリックになる傾向が懸念される。米国の場合は対コロナを「戦時態勢」と位置付けているから、多少の犠牲はやむを得ないとの構えだが。

2021年