豊島逸夫の手帖

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FOMC後、1810ドルまで急落

2021年6月17日

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金融緩和から縮小へ、市場の流れが変わるサプライズFOMCとなった。

これまでパウエルFRB議長は利上げについて「考えることを考えたこともない」と語っていたのだが、今回の記者会見では「話し合うことを話し合う」と明言した。更に「FRBのインフレ期待感」については日本の長期停滞を具体例として挙げ、原油急騰など、短期要因ではなく長期動向が重要と語った。前回のFOMC以降に消費者物価指数急騰などの過熱要因が顕在化しているが、「それでもインフレは一過性」との見解を変えなかった。同時に発表されたFRB経済レポートでもFOMC参加者が予想するインフレ率の中間値を前回の2.4%から3.4%に引き上げた。GDP成長率予測も7%と上方修正した。長く低インフレ体質に慣れ切った市場の感覚ではバブルを想起させる数字だ。ヘッジファンドは年内ならインフレトレード(インフレを前提にした短期運用)継続だと意気込む。但しFRBは2022年のGDPが3.3%、インフレ率が2.1%への下落を見込む。年内から来年にかけ、かなりの市場変動を覚悟せよとのメッセージとも読める。

FOMC参加者の金利予測分布を示すドットチャートでも、2022年利上げ予測派が前回4人から7人に増加。2023年については利上げ予測が18人中13人で、しかも利上げ回数の中心値は2回となっている。FRBがタカ派(金融引き締め支持派)に転向した感がある。

とは言え、パウエル氏は発言にヘッジもかけている。曰く「ドットチャートは時に外れるものだ。FRBも民間も経済予測は誤ることがある」。開き直りの如き表現だ。分かり切ったことゆえ余計な一言に聞こえた。

中央銀行のトップから、ここまで明確に予測の限界を明示されてしまうと市場の不透明感が強まる。ドットチャートに対する市場の異常なまでの注目度に対する警鐘とは言え、誰も肯定も否定もできない状況は短期投機筋に「いいとこ取り」できる機会を提供する結果になる。

なお、これまでテーパリング号砲の機会として注目されていた8月ジャクソンホール中央銀行フォーラムは機先を制された感があり、市場の関心は量的緩和縮小の具体的時期と縮小量に集まる。パウエル氏も記者会見で前年同期比物価上昇率急上昇のかなりの部分は、前年の低水準との比較という「ベース効果」による。更に中古車価格急騰など、限定的な現象の影響も強いと述べていた。ベース効果が薄れる7月以降の物価上昇率がより現実に近い数字と言えよう。そこを確認した上で、9月FOMCでテーパリング決定。早ければ年内開始とのシナリオが現実味を帯びてきた。

パウエル氏は繰り返し十分に時間を取って予告した上で、市場の混乱を避けると明言してきた。記者会見ではそれをどのような形で実現させるのかとの質問も飛んだ。FRB副議長や理事たちに講演を通じてアクションプランの検討事例を語らせるのか。いずれにせよ、ある日突然「xx月からxxドル相当の縮小を開始する」と発表するわけにもゆくまい。最近FOMC参加者が好んで使う表現が「忍耐強く」(patient)という単語だが市場は忍耐が苦手だ。すぐに焦れる。テーパリング発表・実行のスピード感も極めて重要である。

金利を生まない金にとって利上げが具体的に、しかも想定より早く視野に入ってきた。加えて市場は利上げを織り込み、ドル金利上昇=ドル高である。これも国際金価格には売り要因。但し円安は国内金価格には上げ要因。

筆者にとってもサプライズであった。下げ相場がどの程度継続するのか要経過観察である。

2021年