豊島逸夫の手帖

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いよいよ注目の8月雇用統計発表

2021年9月3日

8月米雇用統計が今晩発表される。今週の市場ではこのビッグイベントを控え、ポジションを整理する動きが目立った。
今回の雇用統計への注目度が高いのは、特にテーパリング(量的緩和縮小)の発表・開始時期の決定要因になり得るからだ。

当初は今晩発表の8月雇用統計次第で、市場には9月FOMCにてテーパリング決定との観測が流れていた。ウォラーFRB理事の「7月と8月の雇用統計で非農業部門新規雇用者数の力強い増加継続が確認されれば9月FOMCで発表、10月には開始の準備が整うだろう。そうでなければ数か月先送りされることになろう。」との発言などが根拠とされた。総じてFOMC内タカ派は金融緩和から引き締めへの本格転換となる利上げを重視している。テーパリングはその前座扱いで早々に片付け、利上げ議論に時間をかけるべしとの考えである。

しかし、ジャクソンホール会議でのパウエル講演後は、11月発表、12月或いは来年1月開始説が強まっている。
例えば、ハト派の代表格で次期FRB議長候補として一部で名前も挙がるブレイナードFRB理事は、9月雇用統計を見て決める意向に言及している。9月雇用統計は10月に発表されるが10月にFOMCは開催されない。従って最短11月FOMCで決定の可能性を示唆したことになる。

ハト派が9月雇用統計に拘るのは、同月に学校再開状況が明らかになり、離職して子供の世話をする女性労働力の復帰が見極められること。更に同月には失業保険追加支給の多くが期限切れになるなどの理由がある。

一般論として労働参加率がコロナ前の水準に戻らないことは、雇用面でテーパリングを遅らせる要因のひとつだ。
但し、ベビーブーマー世代の退職など構造的問題も影響しており、労働参加率改善まで待つと政策対応が後手に回るとの意見も根強い。
とは言え、前回の経済回復期に雇用回復を過大評価して利上げを急ぎ過ぎたとのトラウマも残る。
今回の難題は変異ウイルス猛威の雇用への影響の見極めだ。
8月に入り、デルタ株懸念で米国主要経済指標が軒並み悪化している。この悪い流れを雇用統計で断ち切ることができるのか。
9月1日に発表されたADP民間雇用統計は、事前予測が60万人台のところ、37万4千人と大幅に下振れした。本日発表の雇用統計を本番とすれば、前座扱いされがちな民間雇用統計だが、あまりの誤差に市場は訝った。

ところが2日に発表の新規失業保険申請件数は、前週比1万4千件減の34万件と昨年3月以降の最低を更新した。雇用統計は遅行指標だが、毎週発表される失業保険申請数は先行指標と位置付けられる。経済はデルタ株リスクへの耐性を醸成しつつあるとの楽観論が勢いを得てきた。
8月雇用統計の非農業部門新規雇用者数は、過去2か月90万人以上が続いた後で、直近のデルタ株の悪影響を考慮しても、70万人程度の数字が出れば市場の想定内とされよう。
対して、仮にADP民間雇用統計のように大幅な下振れとなれば、市場内のデルタ株懸念が強まり、量的緩和縮小の早期開始を織り込みつつある市場は、テーパリングトレードの巻き戻しを強いられよう。

国際金価格は教科書どおりなら、雇用統計下振れ→テーパリング先送り観測→テーパリング観測で売られた金の買い戻し。上振れはその逆となるはず。しかし最近の相場は教科書どおりに動かないこともしばしば。投機筋の思惑は蓋を開けてみないと分からない。

2021年