2021年10月11日
8日発表の米9月雇用統計は非農業部門新規雇用者数が19万4千人と事前予測50万人を大きく外す結果となった。しかしパウエルFRB議長の「量的緩和縮小を開始するための条件はほぼ満たされた」との見解が変わるほどのインパクトには欠けるようだ。同氏は月次の新規雇用者数推移より、累積雇用者増加傾向を重視すると明言しているからだ。しかも7、8月の新規雇用者数は上方修正されている。とは言え同氏は「テーパリングと利上げはデカプリング(別物)」と位置付けており、より厳しい条件を課す利上げ開始の議論には更なる時間を要することになりそうだ。特に好調な民間部門の雇用増(30万人超)に比し、公的部門の雇用者数が伸び悩んでいる。セクター別に見ると教育部門の減少が目立つ。金融政策が制御できないデルタ株感染やワクチン接種遅れの要因で学校再開が予定どおり進まず、公的分野の学校関連雇用が増えないのだ。
更に企業の視点では「人手不足」なのだが、雇用統計では働きたくても働けない人たちの存在が労働参加率低迷傾向に顕著に現れている(9月は61.6%)。失業保険増額の特例措置が失効しても働く人が思うようには増えない。デルタ株感染を嫌がる人。学校再開が不透明なので子育てのため就職できない母親。この際転職を望み自己啓発に注力する人。高齢で再就職意欲が衰えた人。
かくして限られた労働意欲者に雇用者が群がり賃上げ競争が生じている。平均時給は年率4.6%に達した。
いやが上にもインフレ懸念は高まる。最もFRBが重視するPCEインフレ率も4%を超えた。金融政策の管轄外である生産制約の影響が長期化の兆しをパウエル議長も「不快な現象」と苦々しげに認めざるを得ない。
なお、失業率が4.8%まで低下したが、これとて求職者減少が要因のひとつになっている。
総じて、米国経済成長は鈍化傾向が強まる中で賃金を上げても働き手は増えない。米国市場ではスタグフレーションの足音が気になる。特に8日の雇用統計発表後の市場の変化として、米10年債利回りが1.6%の大台を超えたことが原油高と並び最も注目されている。
現在の異形の雇用環境を吟味すればするほど、本当にFOMC参加者の半数は2022年利上げを見込んでいるのか。彼らが判断を誤るリスクも無視できない。時あたかもFOMC参加者の一部が個人的株売買を行っていたことが違法ではないものの、市場の疑念を煽る結果になっている。パウエル議長再任についてもバイデン・イエレン両氏のお墨付きで、まず順当な人事と見られるが市場内に流れる「再任確率」は「当選確実」ラインを下回って来たとされる。
9月雇用統計は市場リスク再点検の必要性をあぶり出した。
国際金価格はKITCOグラフ赤線のように雇用統計直後は新規雇用数激減を重視して経済不安=金買いで1780ドルまで買われたが、その後それほど雇用統計は悪化していないとの判断、且つドル金利も急騰したので、結局売られ金価格は1760ドル前後の最近の水準に戻った。