豊島逸夫の手帖

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最大級の要因「ジャクソンホール会議」を読む勘所

2021年8月26日

2021年の夏相場で最も重要なマーケットイベントとされてきたジャクソンホール中央銀行会議がいよいよ今週末にかけて開催される。例年ワイオミング州の避暑地ジャクソンホールに世界の中央銀行幹部が集い、リゾートの雰囲気の中、普段着で語り合う場である。しかし今年はデルタ株猛威により急遽リモート形式となった。週に数回FRBへ出勤するパウエル議長は執務室か自宅からリモート講演することになろう。

市場の注目点は、やはりテーパリング(量的緩和縮小)。
既に7月FOMC議事録で「殆どの参加者が」テーパリングに関しては「総論」実質合意していたことが確認された。
しかし、具体的なテーパリング決定と開始の時期に関してはFOMC内でも意見が割れている。デルタ株の経済への影響、具体的な実施期間と毎月の縮小額などが未だ流動的である。更に「量的緩和・ゼロ金利政策がコロナ関連の失業減・物価安定に有効か」との命題に関する意見も交換されよう。市場の最大注目点である「インフレは一時的か否か」に直接関わる議論でFOMC内部でも意見が割れている。パウエル議長はこれまで「現在の物価上昇は一時的」との主張を貫いてきた。もしジャクソンホール講演でこの見解を変えることがあれば市場にはサプライズとなろう。

雇用問題も重要だ。量的緩和を継続しても労働参加率をコロナ前の水準に戻すことは難しい。コロナ感染を警戒して就職を控える人たちや学校再開が不透明な状況で子育てにより働けない女性の問題を金利や量的緩和で解決することはできない。そもそも量的緩和政策はマクロ経済の需要サイドには効くが供給サイドには効かない。半導体不足とかサプライチェーン破断などの「生産制約」由来の価格上昇を金融政策で抑え込むことは無理筋だ。

ジャクソンホールでのパウエル講演に関しては、テーパリングの決定・開始時期が年内9月か10月か11月か12月か、市場が深読みすることになろう。

金市場の視点では、テーパリングにより教科書通りドル金利が上昇するのか下落するのか、ここが勘所となる。これまではテーパリングの議論が進んでもドル金利は10年もので1.7%から1.2%まで下落した。
インフレヘッジとしての金が買われるような経済環境についての吟味が関心事となる。期待インフレ率の動きが重要だ。

そして、名目金利と期待インフレで決まる実質金利が、金価格の中期的動向には強く影響する。基本的に実質金利がマイナスの状況は変わらないだろうが、マイナス幅が縮小すると実質金利は上昇したことになるので金価格には逆風となろう。
更に、市場がテーパリングを織り込んでも次に問題となる「利上げ」(名目短期ドル政策金利の引き上げ)の時期についての議論に関して、金利を生まない金の市場は重視せざるを得ない。2023年か、或いは前倒しで2022年か。

総じて、実質金利がマイナス状況は続くので中長期的に金価格は強気に見ている。しかし短期的には名目ドル金利上昇が外為市場ではドル高となりがちなので金には逆風が吹きそうだ。
名目金利と実質金利の話は極めてややこしいので分かりにくいが避けては通れない問題である。
債券市場に馴染みは薄いと思うが普段から少しずつでも目を向ける習性を養ってほしい。

なお、ワイルドカードとしてデルタ株要因も見逃せない。
デルタ株の猛威が更に悪化すればマクロ経済も委縮してテーパリングどころではなくなる。
既に本欄でも書いたように最新の米国経済統計はPMI、小売統計、消費者信頼感指数などで悪化が顕在化している。
ややタカ派寄りに見られているパウエル議長が経済に悲観的となり、本来のハト派に戻るサプライズもあり得る。テーパリングは来年に持ち越しなどのシナリオだ。これは金には短期的に反騰要因となる。
パウエル議長のこれまでの発言を見ても、常に「デルタ株次第」の但し書きが付く。発言にヘッジをかけているのだ。

日本でもデルタ株の地方への拡散ペースが凄いね。
県境を跨いで持ち込まれたウイルスが県内の飲食機会・職場・学校を通じてばら撒かれている。
県境を跨ぐ東北新幹線などは今やガラガラだが県内で、特にお盆にはかなり人流が増えていた。ちょっとだけなら県内人の親族・友人が集まるのもいいだろうとの思いを多くの人が持っていた感がある。
誰もいない田んぼでもマスクしているお爺ちゃんが孫に会うとマスク忘れて触れ合ったりする。
その結果、親族で感染者でも出そうものなら一夜にして村八分状態になる。
強い相互監視社会だが家族内では意外にガードが甘い。
これから秋には選挙がある。地方では「感染対策をした」とされる集会が増えることは間違いない。
政治空白期も生じる。医療崩壊は覚悟せねばなるまい。

2021年