豊島逸夫の手帖

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習近平氏は恒大を救済するか、党大会控え危うい綱渡り

2021年9月24日

23日のNYダウ平均株価は506ドルの急反騰を演じた。FOMCでパウエル議長が、量的緩和縮小と利上げのデカプリング(分離)の姿勢を明示したことが、利上げは急がずと解釈された。更にエバーグランデ(恒大集団)については、リーマン級ショックを回避されるとの慎重な楽観論が台頭してきた。中国人民銀行が1.5兆円相当の過去最大規模の緊急流動性投入を行ったと外電が報道したことも好感されている。

恒大ショックについては依然政府が救済するか否か不透明だ。会長が世界的富裕長者である超大手不動産企業を救済することは、富める者から貧者への所得再配分を掲げる「共同富裕」政策に逆行する。

とは言え、このまま破綻を放置すれば中国経済GDP減速、更に不動産依存の中国地方経済への悪影響は不可避となる。中国では不動産及び関連セクターが、GDPの29%程度を占めるとされるほどレバレッジ(過剰債務)で膨張している。一方で中国個人の資産保有は不動産の割合が半分以上を占め、不動産価格下落による負の資産効果がマクロ消費分野を押し下げるリスクは無視できない。更に恒大集団は自社の業績にリンクする理財商品を売りまくり、資金不足の補填手段とした。年率7%程度のリターンを謳ったが実際の運用先は闇の中である。販売方法もグッチの宝飾品やダイソンの空気清浄機を「おまけ」として提供するなど、派手なマーケティングが目立った。多くの理財商品購入者が「虎の子」を失い、恒大本社に押し掛けた。デルタ株懸念による個人行動制限強化、持ち家の価値急減などが重なり、中国共産党が最も嫌う「社会不安」の兆しが視野に入る。

かくして習近平氏は極めて危うい政策的賭けを強いられている。
現実的シナリオとしては「厳しく管理されたデフォルト」が、軟着陸と強硬着陸の折衷案として浮上している。

具体的には地方政府と大手国営関連企業が経営を引き継ぐ「海航方式」がモデルケースとなる。同社は海南航空を中核とする複合企業で国際化路線拡大により業績を上げたが過剰債務の重みに沈んだ。2020年に海航集団は海南省の再建専門チームを受け入れ、政府系投資会社と海南省経済開発区の幹部を取締役として選任した。

ここでのポイントは地方政府が国有地を切り売りして、更に地方融資平台という特別目的機関を通し、巨額の地方債(城投債)を発行して、所謂「箱もの投資」に走ったことだ。今や地方政府財政は不動産相場依存型となった。大手不動産開発企業が破綻すれば不動産価格の下落を招き地方財政は危機的状態となる。恒大危機の最大の問題点がここにあると説く中国人学者も少なくない。
それゆえ恒大再建に地方政府が直接関与することは喫緊の課題なのだ。

更に恒大問題は中国経済モデルが、不動産事業が主導するインフラ投資主導型から国内消費・ハイテク環境関連産業主導の新常態へ転換するキッカケにもなり得る。この産業構造の転換はかなりの荒療治だが不動産分野は既にオールドエコノミーの代表格なのだ。そもそも少子高齢化、農村部から都市部への人口移動一巡の現状で、更なる成長性は見込めない。

とは言え、経済構造の転換には良質な資金によるファイナンスが不可欠だ。不動産や仮想通貨投機に走る国内投資マネーではなく、海外の機関投資家マネーの参入が必要なのだ。特に中国国内債券市場のインフラ再構築は避けて通れない。これまでは例えば城投債を大手国策銀行に割り当て保有させるなど官主導の市場であった。渋る民間銀行に対して中国人民銀行が「適格担保」扱いという「甘味剤」を付与していた。この旧態構造を変えるには市場原理で動く海外マネーの流入による流動性増加が必須と言える。

一方、米国の大手金融機関も米国内市場が飽和状態となり海外、特に中国マネー取り入れが戦略的最優先事項だ。あのトランプ時代でさえ米国金融大手トップの訪中など民間経済外交は続いていた。バイデン時代に入り、例えばゴールドマン・サックス証券の中国現地法人も米側の出資比率が100%となった。競合他社も相次いで中国での事業拡大を急ぐ。米中経済対話の中でも米系資本の中国参入は両国に恩恵をもたらす、最も受け入れやすい事項である。

ワイルドカードは中国側の大企業叩き。情報漏洩リスクや寡占リスクが嫌われ、狙い撃ちされている。
恒大問題も敢えてステルス救済の道を選ぶにしても「共同富裕」の観点から見せしめ的に恒大会長立件などの可能性がある。これみよがしに会長の妻が同社理財商品を購入して見せるなどの行動が報道される状況を見るに、こじつけで拘束する事態が絵空事とは言えない。

形振り構わぬ習近平氏の強権政治が恒大問題にも影を落としている。
恒大危機に関してリーマンショックとの相似点を粗捜しするより、中国経済の今後を占う試金石として注視するマクロ経済の視点が重要であろう。
恒大ショックに関しては、明日土曜日朝9時半からBSテレ東「日経プラス9サタデー」に生出演して語る。

さて、金価格はドル10年金利1.4%台に急騰。外為市場ではドル高を受け、1740ドル台まで沈んだ。(KITCOグラフ緑線参照)。利上げの話が市場で出始めると金利を生まない金は売られがちになる。

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2021年