豊島逸夫の手帖

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ドル安かドル高か、2022年米中間選挙も視野に

2021年1月13日

今日は大統領選後の米国政治情勢のお勉強。

市場は「ブルーウェーブ宴の後」状態で、夜明けのコーヒーのほろ苦さを味わっている。青い波というより、青いさざ波程度かとの厳しい現実を噛み締めている。

ダウ平均も31000ドルの大台に乗せた後は一進一退の地合いだ。注目の米10年債利回りも12日は1.18%まで上昇後、1.11%まで急落した。ドル金利上昇を受け反発した米ドル相場も、ドルインデックスが90.6から90.0まで再び下落している。国際金価格は1820ドルまで急落後、1860ドルまで戻して下げ渋っている。

ブルーウェーブと言っても、冷静に見れば下院は222対211まで議席数差が縮小して共和党躍進が目立つ。上院も50対50ということは、一議席でも空席が生じれば民主党過半数は覚束なくなる。大統領選も選挙戦後半の猛烈な追い込みでトランプ現大統領は7400万票を獲得している。議会乱入という大汚点を残し支持者が徐々に離反してゆくが、弾劾ともなればコアのトランプ熱狂的支持者たちは陰謀説のもとに益々結束を固めるであろう。共和党としてもトランプ氏を見捨てることはできない。2022年に控える中間選挙も激戦必至だからだ。トランプ氏が「応援演説」に駆り出される州も少なくなかろう。

民主党側から見れば共和党との妥協を強いられる状況だ。バイデン次期大統領も、長年の盟友で今や「第三の大統領」とさえ言われるマコーネル共和党上院院内総務との「腹芸」を駆使せねばなるまい。
更に、ワシントンでの議会乱入事件を嫌気して造反する共和党議員の取り込みも目論むであろう。
民主党内急進左派への配慮も欠かせない。

かくして複雑化する政治情勢の中で、まずは民主党バージョンの大型財政投入案を共和党財政均衡派の意見も考慮した上で「ダイエット=減量」せねばなるまい。

一方、株式市場の視点で気になるバイデン増税は、できるだけ先送りして内容も希薄化されそうだ。法人増税案もトランプ減税による現行21%から28%への増税を謳ってきたが、25%程度に収めるとの見方も浮上してきた。とは言え、国外利益への課税の観点からGAFAは狙い撃ちにされそうだ。ここはツイッターとフェイスブックによるトランプ氏アカウント全面停止に関する議論と重なり、超党派で受け入れられるところであろう。

市場の視点で最も不透明な部分は「ドル安かドル高か」。
ここはブルーウェーブ祭りの勢いで、マーケットは兆ドル単位の複数回財政投入を見込んでいた。まずバイデン次期大統領就任直後の初仕事として追加的個人給付金、3月に失効する失業保険上乗せの延長、そして地方自治体への財政支援が期待されている。次に選挙公約でもあるクリーンエネルギー関連分野インフラの大型投資。そこまで実行すれば、米10年債利回りは1.5%程度まで上昇する可能性が市場では語られてきた。金利差要因で外為市場ではドル高に振れた。しかし共和党への配慮は一転ドル安要因となる。

一方、金融政策面ではFRBがゼロ金利政策を2023年まで維持する「フォワードガイダンス」を明示している。インフレ率が2%を超えても「オーバーシュート」を容認して超緩和を継続する姿勢だ。それゆえ2021年はドル安・円高の年と予測されてきた経緯もある。

しかし、財政投入によりコロナ後の経済回復が早まれば、パウエル議長が「量的緩和縮小」所謂テーパリングに言及するかもしれないとの憶測も絶えない。2013年のバーナンキショックを未だに苦い記憶として残している市場は疑心暗鬼だ。12日にはボスティック・アトランタ連銀総裁が「量的緩和縮小=テーパリング」の可能性を完全否定しなかったことが注目されたほどだ。

マーケットがリスクに敏感になると、特にNY外為市場では米ドルが低リスク通貨として逃避マネーにより買われる事例も無視できない。

かくしてNY市場内では、ドル安派とドル高派に意見が割れてきた。昨年から続いてきたドル安傾向がボトムアウト(終止符が打たれた)とする見解と、ドル高は一過性のポジション調整との見解が交錯している。

ドル円相場に関しては、100円を突破するような円高にもならず、110円までの円安も見込めず、結局膠着状態との見方がNY市場では目立つ。動きの少ない市場にマネーは集まらず、特にビットコイン市場の派手な値動きに去勢されたかの如き状況もあり、ドル円相場は「圏外」扱いだ。

予測不能なトランプリスクからは解放されたが、バイデン氏の「腹の内」とパウエル氏の真意も測りかね、困惑気味のマーケットである。

そして、金市場は今回も1800ドル台で持ちこたえている。長期的に見れば依然歴史的高値圏にある。これが仮に1700ドル台になっても、長く金市場を見てきた筆者には、このような超高値圏が維持されていること自体が驚きだ。それほど世界中がリスクだらけということなのだろう。

2021年