豊島逸夫の手帖

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NY金、1700ドル割れ

2021年35

昨晩、パウエル発言で国際金価格は一気に1600ドル台に突入しました。このグラフの緑線の14:00のところです。

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要はパウエルFRB議長が急騰するドル金利に一定の歯止めをかけるか、金利急騰の火消しをするかが市場の関心事でした。

しかし、パウエルさんはすげなく「注視している。(金利上昇は)経済が回復しているからだ。」と語っただけ。専門的な話になりますがツイストオペ、即ち短期債を売って長期債を買うという市場介入をするのではないかとの観測もありました。しかしそのような話は一切出ませんでした。市場は失望(私に言わせれば市場が前のめり気味だったということ)。まず10年金利が1.5%の分水嶺を再突破。株価は前日比プラス圏から一気にマイナス圏に沈み、金も全く同じタイミングで1700ドルを割れました。かなり劇的な転換でしたよ。外為市場でもドル金利上昇によりドル高=円安。108円視野の展開です。これは円建て金価格には強い下支え要因となります。

結局、パウエルFRB議長はドル長期金利上昇を経済回復を示す良い指標と見ているのですね。最新のベージュブック(地区連銀経済報告)でも、「今後6~12か月については殆どの米企業が楽観視している。」との記述がありました。

とは言え、FRBの見解と市場の見解には温度差が感じられるようになりました。これまでは「困った時のパウエル頼み」みたいに、市場はパウエルさんからの助け舟を期待する傾向が強く、「FRBには逆らうな」と言われてきました。パウエルプットとも言われました。でもこれが「FRBを疑え」に変わりつつある印象です。パウエルプットも効かないかも。

市場心理は複雑です。

FRBにはハト派でいて欲しい。でも今の状況ではFRBからハト派発言が相次ぐと、経済が過熱してインフレになるのではないかとの疑念も生まれます。そうなると金融緩和政策の縮小、引き締めへの転換も視野に入ってきます。これは新たな現象です。今後はFRBのハト派姿勢が必ずしも市場では歓迎されない可能性があります。頭の中の切り換えが必要でしょう。

なお、株高に対する姿勢がトランプ氏とバイデン氏では全く異なることも興味深い現象です。トランプ氏は株価を政権の通信簿と重視して、株価が上がれば「やったぜ!」みたいなツイートを発したものです。対してバイデン氏はウォール街のお金持ちより中間層を重視。株式市場とは距離を置く姿勢を見せています。この違いはジワリと顕在化してゆくでしょう。

2021年