2021年9月29日
28日、上院議会公聴会で民主党急進左派のエリザベス・ウォーレン上院議員は「パウエルさん、貴方の銀行監督は緩い。貴方は危険人物だ。FRB議長職再任に反対する。」とまで言い放った。
これは極端な事例としても市場のパウエル議長への評価が揺れていることは事実だ。特に市場の関心が「利上げ」にシフトすると、パウエル議長はこれまでの「市場の守護神」から「市場の敵役」に転じる可能性がある。
特に「インフレは一時的」と繰り返し主張してきたパウエル議長の情勢判断が誤っているのではないかとの疑念が強まっている。パウエル議長の言動にも若干ブレが出始めた。28日の公聴会でもパウエル議長の発言はこれまでとややトーンが変わった。「西海岸の港湾ひっ迫など、想定を超える供給制約要因が生じて、その影響が想定外に長引いている。」と丁寧にサプライサイドのインフレ要因について説明したのだが、最後の締めに使ってきた「それでもインフレは一過性」との但し書きを飛ばし、言葉を濁す一幕もあったのだ。そもそも量的緩和の縮小(テーパリング)で過剰流動性によるインフレは抑え込めるが、供給制約要因をFRBが制御することはできない。生産コスト上昇を消費者に転嫁できるかという問題も業者間の力関係により様々な事例がある。
「国際商品価格の急騰」という論点も商品市場特有の問題が判断を難しくしている。まず「コモディティー」という範疇が細分化されていること。原油・食料品・産業用金属など、それぞれ独自の需給要因を抱え、日々の値動きは上がる物もあり、下がる物もありバラバラである。28日も今話題の原油先物価格は反落した。銅・ニッケル・亜鉛・鉄鉱石・トウモロコシ・大豆・小麦・木材なども価格を下げている。商品先物市場という投機的な場で価格が決まるため思惑で価格変動幅が増幅される。
とは言え、日々の値動きはばらつくが年初来では価格上昇率が顕著だ。しかし感染が落ち着くなど、ひとたび潮目が変われば商品価格も一気に振り出しに戻りかねない。「インフレは一時的」と言ってもそれが3か月か6か月か、或いは1年か。現在世界の市場で正確に見極められる人はいない。パウエル議長だけが「占いの水晶玉」を持っているわけではない。その意味では市場がパウエル議長に頼り過ぎている面も否定できない。
そして、今回株安の引き金を引いた米10年債利回り1.5%超えも今後1.8%程度まで続騰するか、再び1.3%程度まで反落するかの見方は分かれる。そもそも年初にはコロナ終息や経済再開を見込んで1.8%から2%を予想する専門家が多かったが、実際は1.2%台まで低迷した経緯があるためプロの間でもトラウマが残る。
このような極めて視界不良の市場環境で株価やドルが揺れている。
金利を生まない金は、やはりドル金利が上がると売られた。しかも外為市場ではドル高・円安(久しぶりの111.50円)。円建て金価格の下げは為替要因で相殺された部分もある。NY金市場は時間差攻撃の金売り攻勢だ。それでもインフレ懸念は根強いので1730ドル台で「とりあえず」下げ止まった感がある。短期的地合いは脆弱だ。