豊島逸夫の手帖

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いよいよ12月FOMC、パウエル・ピボットへ

2021年12月15日

今年最大級のマーケットイベントである12月FOMCが12月14~15日の日程で開催されている。日本時間16日早朝に声明文とパウエル記者会見が開催される。

今回のFOMCは米国金融政策の方向転換を議論する場なので特に重要だ。具体的には金融緩和から金融引き締めへの転換だ。それゆえ英語ではPowell Pivot(パウエル氏の方向転換)がキーワードになっている。テーパリングは量的緩和(QE)の縮小で、あくまで緩和策だが、次に控える利上げは引き締め政策となる。更にその後には量的引き締め(QT)がある。FRB資産圧縮とも言われるが、米国債や住宅担保債券などの巨額購入で8.5兆ドルまで膨れ上がったFRBの資産規模を正常に戻すことだ。但し、これはまだ先の話。

今回方向転換と言われるのは、雇用と物価というふたつの目標があるFRBが、これまでの雇用重視から物価安定に軸足を移すからだ。雇用面では失業率が4.2%まで下がってきた。労働参加率低迷などの問題は残るが、相対的には失業よりインフレの方が重要になってきた。奇しくも14日には11月米国卸売物価指数が年率10%に接近するという39年ぶりの出来事があった。卸売段階の価格急伸は早晩、消費者に転嫁されることになる。いよいよ待ったなしのインフレ対策が急務なのだ。バイデン大統領も来年の中間選挙ではインフレが庶民のレベルでは大きな経済問題ゆえ、かなり神経質にインフレ退治策を繰り出している。FRBにも政治的圧力がかかりそうだ。そもそもパウエルFRB議長は、つい最近バイデン大統領により再任されたばかりである。

市場はインフレを視野に、FRBが2022年3月にはテーパリングを予定より早く切り上げ終了させ、最速5月には1回目の利上げ。更に年後半には2回目、3回目の利上げ、そして2023年にも3回の利上げの見込みを織り込みつつある。インフレが当初の想定よりかなり長期化するとのパウエル見解のピボットがあったからだ。即ち先日の議会証言で、これまで使ってきた「インフレは一時的」との表現を今後は使わないことを明言した。更にテーパリングについても「予定より2~3か月早く切り上げる」可能性に言及した。これは正にピボット=方向転換なのだ。市場ではパウエルFRB議長がハト派からタカ派に変身したとも言われる。

但し、FRBは利上げによって民間過剰消費を抑えることはできても、サプライチェーン混乱による物価高を封じ込めることはできない。ここに供給サイド由来のコストプッシュインフレ退治の難しさがある。パウエル氏自身も「生産制約によるインフレは来年後半には鎮静化すると多くの専門家が見ているようだが、その保証はない」と議会で明言した。異例の発言である。

更に、ハト派の主導格であるサンフランシスコ連銀デイリー総裁までが、現在進行中の物価急騰はeye popping(目玉が飛び出る)と表現してタカ派への転向を示唆した。

かくして12月FOMCでの議論もヒートアップしそうだ。
その前座とも言える11月卸売物価上昇率、10%接近の報で、国際金価格は1760ドル台まで下げたのち反騰している(KITCO緑線参照)
3402.png二桁インフレともなればインフレヘッジとしての金の出番だが、その経済対策として2022~2023年に6回も利上げされるのでは金利を生まない金には強い逆風となる。
結局、インフレ進行と利上げ進行のスピード競争。
インフレ進行の方が速ければ、ドル実質金利のマイナス幅は拡大して金価格は1900ドルへ。
利上げ進行の方が速ければ、ドル実質金利のマイナス幅は縮小して金価格は1600ドルへ。

マクロ経済の視点では、パウエル議長が利上げでインフレを封じ込め、過熱もせず冷え過ぎもしない適温経済(ゴールディロックス)を実現させればFRBへの信頼性は維持される。その場合、金は売り。
しかし、この未曽有の難しい海図なき航海で、パウエルFRB議長が判断を誤り、インフレが制御不能になれば金は買い。

危うい綱渡りを強いられるFRBの金融政策により、金価格動向が決まる。
なお、以上は2022年にかけての話だ。

多くの個人投資家は老後など、10年以上の視点で金を積み立てているので、FOMCのドタバタは高みの見物で一喜一憂する必要はない。数十年の間にはインフレもあればデフレもあろう。その経済の変動の中で、実物資産=金が持つ希少性による独自の価値が、ポートフォリオの中で重要な資産になるのだ。FOMCは経済のお勉強として格好の材料を提供してくれているので、ここはじっくり学ぶ機会であろう。

2021年