豊島逸夫の手帖

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「企業も公平な負担を」、覚悟のイエレン発言

2021年5月19日

「インフラ投資と増税はパッケージで米企業の国際競争力を改善させる。企業側も公平な負担をすべきだ。」
18日イエレン財務長官のこの発言が米国株式市場で株売りを誘発した。「多少の金利上昇はやむを得ず」との発言(後に修正発言)が株安を引き起こした記憶も未だ生々しく残る市場には刺激的な効果があった。

しかも発言の場が企業団体とも言える米国商工会議所。早速同会議所のトップが「インフラ投資は結構だが、それをファイナンスするには他にも方法があるのではないか。」と異論を唱えた。
アウェーとも思える状況での発言にはイエレン氏にも相当の覚悟があったと思われる。

FRB議長時代のイエレン氏は「困った時のイエレン頼み」と言われるほど「市場の味方」であった。しかし財務長官となると「市場の敵役」も演じねばならない。NY市場のトレーディングルームではイエレン氏への不快感をあらわにするコメントも聞かれた。
18日のダウ平均がこの発言も一因となり引け際30分ほどで急落。結局前日比267ドル安となったからだ。

更に中期的な視点でも、この事例は市場の関心が金融政策から財政政策に広がる兆しと映る。
テーパリングリスクはほぼ語り尽くされ、時期が不透明だが市場は既に覚悟している。
しかし財政リスクに関しては、市場内の本格的議論もこれからで未だ織り込まれていない。

未曽有の規模のバイデン大型財政支援策を賄うための増税が強い反対論で削られれば、国債増発圧力が強まるは必至だ。しかし頼みのFRBは量的緩和拡大で国債購入を増やす状況ではない。結局米国債保有国一位二位の日本と中国など、外国人保有者に依存する債券市場構造となっている。しかもグローバルな外為市場ではドル安傾向が顕著で、18日にはドルインデックスが90の大台を割り込んだ。ドル円相場の円安ドル高はグローバルな視点では円主導の例外事例と言える。このドル安傾向は米国製品の国際競争力を強めるものの米国債の購入意欲を削ぐ要因となる。

結局バイデン政権の大型財政支援策には有効で実現可能なファイナンス案が見当たらず、年後半にかけ市場の関心が金融政策と財政政策の危ういポリシーミックスに及ぶことは避けられまい。
その予告編をアウェーの場でイエレン財務長官は演じて見せたのかもしれない。

この事例は金市場にとって極めて重要だ。
リーマンショック後に金価格が当時の史上最高値を付けるに至ったキッカケが米国債格下げであった。
そしてコロナ危機の今「発行者がいない資産」、「誰の債務でもない資産」、「信用リスクとは無縁の価値を持つ資産」としての金が見直されつつある。

さて、ワクチン接種が進む米国ではテキサス州知事(共和党)がマスク着用を強制する州内公的機関や公務員には罰を課すと発言。どこの国でも政府と地方の軋轢は絶えない。それにしてもマスクしろと言って罰せられるとは。国の文化の違いか。

それからマスク外し傾向が強まる中で米国では歯を白くする審美歯科とか歯磨きが人気化。日本も早くそうなるといいね。

なお、米国経済テレビは写真のように「日本の医師たちがオリンピック中止を要請」とのブレーキングニュースを流していたよ。

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2021年