豊島逸夫の手帖

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ビットコイン先物ETF上場について

2021年10月20日

19日、NY証券取引所で初のビットコイン先物ETFが上場され、オープニングベルとともに売買が始まった。

ETF化により市場には暗号資産投資の裾野が拡大するという期待感が溢れる。しかしビットコインの先物価格に連動するという立て付けゆえ正確にはETF(Exchange Traded Fund)ではなく、ETN(Exchange Traded Note)の範疇に入り、似て非なる商品だ。決定的な違いはETNが現物のビットコインを購入せず、単に原資産(ビットコイン)価格に連動するということ。対してETFはビットコイン現物を購入した上で、その上に信託権を設定して有価証券化する。規制当局も先物価格は商品先物市場を管轄するCFTC(商品先物取引委員会)だが、ETFやETNはSEC(証券取引委員会)である。
既にビットコイン現物ETFも申請はSECに受理され審査中なのだが認可は下りていない。

筆者は金という、これもエキゾチック(異国的)とされる投資媒体の現物型ETFの米国初上場に直接関与して、現地でSEC詣でを繰り返した経験がある。ビットコインにせよ金にせよ、伝統的アセットクラスには属さない新たな投資媒体のETFに対して、SECは基本的に極めて慎重である。最終的に完成した目論見書は150ページほどになったが、その約半分は単なる金市場の教科書的説明であった。それが「リスク開示」とされたのだ。

金ETF上場の経験から言えばSECとの折衝で彼らが最も拘ったことは原資産価格に正確に連動するかという点であった。ETF価格と原資産価格の乖離(トラッキングエラー)を最小限に留めるためには、ETFの値付けをするマーケットメーカーの存在が不可欠だ。SECは通常円滑な値付けのためには少なくとも3社程度のマーケットメーカーが必要と見ている。金ETFの場合には投資銀行のトレーディング部門などがマーケットメーカーになった。

しかし、ビットコイン現物ETFに関しては現在の取引所も販売等関連会社もSECの監督下にはない業者だ。マーケットメーカーもただでさえボラティリティーの激しいビットコイン相場が荒れた時に円滑に大口の売買注文を受けることができるのか。SECから見れば甚だ不安であろう。

そこで現実的対応としてSECはまずCFTCの管轄下にある先物取引所の価格に連動する「ETN」を認可したと見られる。その上で当面経過観察の姿勢のようだ。

既に上場初日からビットコイン先物価格と先物ETF価格には乖離が見られた。更に先物価格と現物価格の間にはスプレッド(値差)があり、それがプラスならコンタンゴ、マイナスならバックワーデーションと呼ばれる。コンタンゴならロールオーバー(限月の乗り換え)の時に現先スプレッドに相当するコストがかかる。

なお、今回上場されたプロシェアーズのビットコイン先物ETFは年間手数料が0.95%と設定されている。これは通常の株式ETFの年間信託報酬に比し高い部類に入る。

このような状況で先物ETF上場により例えば年金基金や生保などの機関投資家が参入するとは思えない。「投資適格」になるにはやはりSECの監督下にあることが条件となろう。

個人投資家の視点でもネット上の暗号資産売買に特別抵抗を感じなければ、単にビットコインを購入した方が余計なコストもかからずシンプルで分かりやすい。

暗号資産業界としても現物ETFが本丸であり、そのための布石と市場の裾野を拡大するための足場作りの過程と位置付けられよう。

ウォール街の反応を見ても米国を代表するバンカーであるダイモンJPモルガン・チェース銀行CEOは強い表現でビットコインの資産性を否定するが顧客の要請は増えている。大勢は「極めて投機性の高い商品」と注意を喚起した上で、暗号資産関連商品やサービスの提供を無視できなくなっている状況である。

2021年