豊島逸夫の手帖

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2021年公式金価格見通しと、連休中の金急落劇

2021年112

まず、1月9日日経新聞朝刊マーケット面に載った筆者インタビューの抄録。

■金、強まる財政出動期待

マーケットアナリスト 豊島逸夫氏

――2021年の金相場の見通しはいかがですか。
「1トロイオンス1700~2100ドルの高値圏での推移が続くとみる。新型コロナウイルス感染拡大を受け、各国が続ける未曽有の金融緩和と財政出動は金に強い追い風だ。金価格と相関の強い米実質金利は過去最低のマイナス圏に低下し、金価格を押し上げる。昨年低調だった中国やインドの宝飾品需要も回復し、価格を下支えするだろう」

――大規模な金融・財政政策は21年も続きますか。
「昨年との対比でみると、金融政策は既に出尽くし感があり、追加緩和の余地は限定的だ。その分、21年は財政政策への依存度がより高まる。市場には前米連邦準備理事会(FRB)議長で米国の新財務長官となるイエレン氏とパウエル現FRB議長が協調的な政策運営で大規模な財政支出を支えるとの期待がある」

――見通しに対するリスクはありますか。
「世界にとって良い事であるのは言うまでもないが、金価格にとってのリスクは、コロナワクチンが普及して経済活動が人々の期待以上に勢いづくことだ。資産価格がバブル的色彩を強めると、中銀が早期引き締めを迫られる環境が生まれるためだ。13年にFRBが量的緩和策の縮小を示唆した際は、金利が急上昇し、株や商品を含むリスク資産が急落した『テーパータントラム』が起こった。ただ、実際に中銀が今年中に引き締めに向かう可能性は低いとみる」

「金融緩和よりも先に、膨張する財政赤字が年後半にかけて問題視されるだろう。米国では上下両院を制した民主党のバイデン新政権が大規模な財政出動に踏み切るとの見方が強まっている。国債増発が米国債の格下げリスクを高め、ドルに対する信認の低下から通貨安が一段と進む可能性がある。そうなれば国など発行体のリスクのない『無国籍』の特徴を持つ金への注目度が高まるだろう。投資マネーの流入により22年にかけて金の相場上昇は再び勢いづくとみる」

以上

そして、連休中に国際金価格が急落。
一時は1820ドルまで下げ、その後1850ドル近辺で推移中。
いつもの「表層雪崩」。新たにドカ雪の如く積もった投機的買いポジションが表層雪崩を引き起こした。

キッカケは米10年債利回りが1%を超え、直近で1.13%まで続騰したこと。ゼロ金利時代にはこの程度の金利上昇でも「急騰」扱いとなる。このドル金利急騰がドル高を誘発。ドル指数も89台から90台まで急反騰した。ドル円も104円台。金利高とドル高は特に金利を生まない金にとって天敵。

とは言え、そしてここが大事なことだが、名目金利が上がっても実質金利はマイナス圏に留まっている。金上昇の市場環境に変わりはない。バイデンリフレによりインフレ期待は強まり、BEI(ブレークイーブンインフレ率)は2%を突破している(ここは用語が専門的だが、いちいち説明している暇はない)。従って名目金利が1.13%に急騰しても、実質金利マイナス圏に変わりはないのだ。上げ相場の調整局面であり、潮目の変化ではない。

バイデン大統領が就任するのが1月20日。その後100日間はマーケットと新大統領のハネムーン期間とされる。とりあえず兆ドル単位の追加財政投入が囃される。しかし蜜月期間が過ぎると、厳しい結婚生活の現実が無視できなくなる。それは「財源」問題。ここで国債超増発が懸念材料となり、米国債格下げなどが話題になり始めるは必至。金の本番は、それからだ。

2021年