2021年12月28日
今年の金市場は前年に史上最高値を更新した後で相対的には静かな一年であった。
1600ドル台まで急落することはあったが短命に終わった。2000ドルを回復することはなかった。
それでもレンジとしては歴史的な高値圏を維持したと言える。
コロナ禍で米国株価が史上最高値を更新する中でも、株への高値警戒感からマネーが米国債や金などの安全資産に流れる現象が続いた。米国債が買われた結果、ドル金利が思ったほど上がらず、10年長期金利で1%台に留まったことが金利を生まない金には追い風となった。更に生産制約や人手不足によりインフレが顕在化したことでインフレヘッジとして金が買われた。一方FRBがテーパリング(緩和縮小)から利上げへと金融政策の方向転換を検討し始めたことは金には逆風となった。インフレと利上げの綱引きの中で、結果的に狭いレンジでの展開になったと言える。
外為市場ではドル高傾向となった。本来ドル高は金には売り材料なのだが、金価格はさほど強く反応しなかった。長期的に国際基軸通貨としての米ドルに対する信認が低下していることが底流にある。
需給面では国際金価格が1700ドル台になるとインド・中東・中国などの現物需要が増え、所謂バーゲンハンターたちがレンジの下値を支えた。特に前年2020年のロックダウンにより金のサプライチェーンが破断されたことでペントアップ(溜まった)需要が噴出した時期もあった。一方1900ドルに接近するとリサイクルの売りが増えて需給が緩み相場の頭を抑えた。中央銀行による公的金購入も新興国を中心に継続した。対して金ETFからはマネーが流出した一年であった。ここではビットコインへのマネーシフトが注目された。
そしてコロナの変異ウイルスが出現したことが、結果的には金には買い材料になった。特にバイデン大統領が兆ドル単位の財政支出を行ったことで、過剰流動性の一部が金市場に流入したことは否めない。自粛や自宅待機でヒマとカネを持て余した若者たちがゲーム感覚で投資を始めたことが市場の波乱要因にもなった。
円建て金価格に関しては円安により下がりにくい状況が続いた。ドル建て金価格下落時には下げ幅を相殺、逆に上げる時は増幅させる効果があった。
テクニカルには金ETFに代わり、NY先物価格が金価格の短期変動要因となった。その結果短期的にはボラティリティー(価格変動)が激しくなる傾向も見られた。
以上、振り返ってみると年間レンジは狭かったが、様々な要因が交錯する一年であったと言えよう。