豊島逸夫の手帖

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南アの悲惨な暴動

2021年7月19日

南アと言えば1970年代には世界の金の8割以上を生産していた国。今でもプラチナの8割近くを生産する国。ですから私も南アとの関係は深く、出張も多く、あの国のドラマチックな変遷をこの目で見てきました。

一言で言って、悪名高かった人種隔離政策(アパルトヘイト)が撤廃されて国内事情は悪くなりました。
撤廃の結果、黒人たちは隔離されている時代には見ることのなかった白人の豊かな暮らしぶりを見せつけられることになり、かえって人種的反感が強まる結果になったのです。政党や大統領の不正行為の数々も火に油を注ぐことに。特にヨハネスブルグの治安の悪化は酷く、私も南ア出張と言えば郊外にあるサントンという「安心、安全とされる」白人の街に滞在したものです。
今回はコロナ感染も国内人種格差に対する不満を強く刺激しています。

色々経験したエピソードはありますが、特に印象深いのは金鉱山会社幹部の自宅に招待された時のこと。高級住宅街でしたが刑務所のような高い壁に囲まれ、入り口には警備保障会社のスティッカーが。拳銃が描かれていて近づいたら撃つぞという威嚇なのですが、付き添いの同僚から「間違っても近づくな。君はアジア系の容貌だし、ウロウロしていると本当に撃たれるリスクがある。」と諭されたものです。

高級住宅街は不気味に静まり返っていましたが、一か所だけ「塀の中」が賑やかな場所がありました。許可を得て入ると、そこは綺麗に整備された別世界の学校。不気味に静まり返った住宅街との差が衝撃的でした。幹部氏曰く、自宅と学校は歩けば5分だが子供は自家用車で送り迎えしているとのこと。

今では白人の多くは頭脳流出しています。
私の親友である南アの白人は黒人と結婚しました。家族には相当反対されたようですが仲良いカップルでした。しかし結局、離婚。これは親友の身勝手も要因ですが、社会的軋轢も背景にあると感じたものです。

話は飛びますが、今年の全英オープンゴルフでは南ア選手の健闘が目立ちました。最後は米国人プレーヤーが勝ちましたが、個人的には南アプレーヤーを応援していました。何も良い事がなくて、これからもっと酷くなるかもしれない南アのプレーヤーには勝って欲しいと単純に思ったからです。

なお、南ア政情不安はプラチナには生産不安要因となりますが、一時的にNY投機筋に囃され煽られ、買いの要因に祭り上げられるので要注意です。金に至っては今や金生産国としての存在感は無く、市場変動要因にはなりません。

因みに、地下3千メートルの金を採掘する鉱山技術においては南アの専門エンジニアの水準は群を抜いており、ロシアや中国、オーストラリアの金鉱山に助っ人として雇われています。

個人的な思い出としては南ア、ジンバブエ、パース(オーストラリア)と3週間ほど出張した時に、資源国が資源価格に振り回される実態や本当に深刻なアフリカ貧困問題を目の当たりにしたことが忘れられません。

一方で、南アのホンモノの広大なサファリパークの醍醐味。サンシティーというゴルフと娯楽のメッカ。そこで開催された定例「社内会議」(笑)、同国内だから味わえる本物の南ア産ワイン(最高級のワインは輸出には回しません)。ケープタウンの素晴らしい風景。明治時代に喜望峰経由でブラジルに渡った時のことを私の祖母から子供の頃に聞かされていたので感無量でした。その当時のクルーズの写真が残っていて、祖母は日本人離れした「貴婦人」のような容貌でした。後年、その孫が金やプラチナの仕事で喜望峰を訪れるとは縁なのでしょうね。

2021年