豊島逸夫の手帖

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2024年以降も金高値圏の可能性浮上

2020年9月17日

8月のジャクソンホール中央銀行フォーラムで、パウエルFRB議長は米国インフレ率が「平均」2%を超えても緩和を続けるとの金融政策の歴史的転換を発表した。それゆえ今回の9月FOMCで追加緩和について具体的に同氏が何か語るのか、市場は期待を抱き見守った。

「平均」2%とは具体的に何%まで許容するのか。量的緩和の増量はあるのか。金融政策の方向性を明示するフォワードガイダンスとして特に新たな要素が加わるのか。
しかし、FOMC後の恒例記者会見でパウエル氏が市場の「おねだり」に答えることはなかった。一時前日比360超高まで上昇していたダウ平均もパウエル記者会見中に下げ続け、結局36高で引けた。債券市場では金利が上昇。10年債利回りが0.6%台から0.7%台の攻防になった。

記者会見でパウエル議長は、インフレ率のオーバーシュートを許容することを、正式にFOMC声明文に盛り込んだことを「強力な政策」と、しきりに強調した。自画自賛の如き印象さえ与えた。
今回のFOMCでは2名の反対者がいたので、あえて配慮して詳細な説明を回避したのかもしれない。カシュカリ・ミネアポリス地区連銀総裁(一貫したハト派)とカプラン・ダラス地区連銀総裁(中道派)がそれぞれ異論を唱えている。

「財政政策の重要性」も繰り返し言及された。しかし議会は紛糾。未だに追加的財政支援策は決まっていない。
マーケットにはモヤモヤ感が残る。
とは言え、FOMC参加者の金利予測(いわゆるドットチャート)を見れば、少なくとも2023年までゼロ金利が継続される見通しだ。2024年以降の「長期」にやっと「利上げ」のシナリオだ。
更に、今回発表されたFRB経済見通しでは2023年の予想インフレ率が2%に留まる。金融政策を全開モードにしても2%超えは達成できないことになる。2024年以降(長期)も予想インフレ率は2%と記されている。2024年に限れば未だ利上げできずゼロ金利の可能性さえ残る。いずれにせよ金高値圏維持にお墨付きを与えたようなものだ。

なお、今後のFRBの政策課題としては、コロナ禍で困窮している産業セクターに必要なマネーが行き渡ることが重要だ。FRBが民間企業に融資するという前例なき緊急措置が発表されたが、手続きが煩雑で結局民間の銀行融資で賄われている。社債購入も未だ実施事例は限定的だ。追加緩和の前にやるべきことが山積している。
マーケットも単に追加金融政策の有無に一喜一憂するのではなく、発表済みの対コロナ対策の実行度をまずは確認すべきであろう。

2020年