豊島逸夫の手帖

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年内最後のビッグイベント、FOMCを読む勘所

2020年12月16日

今日は一転「しぶこネタ」とは異なり、かなり専門的な話です。
一定の債券市場の知識がないと理解できないかもしれませんが、できるだけ分かりやすく書いたつもりです。

では本文。
日本時間17日朝4時に12月FOMC声明文が発表され、同4時半からパウエルFRB議長の恒例記者会見(バーチャル形式)が行われる。

昨晩1850ドルを回復した金価格の中期的トレンドを占う上で、見逃せない年内最後のビッグイベントだ。コロナ悪化により追加緩和があれば金には上昇要因となる。

今回はパウエルFRB議長にとっても「試練の時」だ。
ワクチン接種による経済回復シナリオを強く語れば、市場は「もはや追加緩和は無し」と失望しかねない。だからといって悲観論を強調すれば、それはそれでマーケットは不安になる。不安感は株価には下げ要因だが金価格には上げ要因となろう。楽観か悲観か、その適度な案配が難しい。市場は記者会見におけるパウエル議長の一言一句、形容詞・副詞の使い方に至るまで注目する。行間を読むマーケットとのコミュニケーションが至難の業である。

足元では深刻化するコロナ感染により、地域的ロックダウンが拡大して、経済停滞が懸念される状況だ。既に市場の追加緩和期待は膨らみ、株価や金価格も徐々にだが織り込みつつある。ここは満額回答ならずとも、市場の期待に応える姿勢を示すだけでも一定の効果はあろう。

では今回期待される追加緩和手段として、どのような選択肢があるのか。

イールドカーブコントロールなども話題にはなるが、ここはずばり量的緩和の拡充しかあるまい。

まずマーケットを俯瞰すれば、債券市場においてワクチン開発進展による経済回復期待で、米10年債利回りは0.9%台にまで、じり高基調が目につく。心理的節目とされる1%突破も視野に入る。ゼロ金利時代では名目金利1%でも金利高懸念要因となりかねない。特に1%の大台を大幅に超えると、米国債増発懸念による「悪い金利高」となるリスクが顕在化する可能性がある。
そこでFRBとしては量的緩和政策の内訳を変更して、10年債など長期債の購入配分を増やし、長期金利上昇を抑え込み、短期債購入は減らす、所謂「ツイスト・オペレーション」を行うとの予測が浮上している。
とは言え、短期政策金利は据え置き、長期金利が上昇する分には長短金利差が拡大して、イールドカーブが立ってくるというメリットもある。振り返ればイールドカーブのフラット化や長短金利逆転現象が生じた時期もあった。経験則では「不況の前触れ現象」なので、市場の不安感が強まったことを思えば、2年債に比し10年債利回りが下がり過ぎても困るのだ。

そこで次案として量的緩和の時期を明示する「フォワードガイダンス」が浮上してくる。これまでは「量的緩和を何か月もの間(over the coming months)続ける」としてきたが、例えば「2021年も継続」のような具体的表現に変えるとインパクトは強まる。或いは物価・雇用関連の指標が一定の数値に達すれば追加緩和措置発動との「判断基準」を明確化することも効果があろう。

最も強い追加緩和は現在月1200億ドル(国債800億ドル、住宅担保債券400億ドル)の債券購入枠を増やすことだろう。しかしこれは「最後の切り札」として温存されよう。
実際には上述の選択肢を「小出し」にして、なけなしの追加緩和手段を最大限活用することになりそうだ。
今回の12月FOMCはその第一歩と位置付けられる。

コロナ情勢は先が読めない。1月5日のジョージア州上院決選投票次第で議会がネジレになるか否かも決まる。事態は流動的なため、今回は従来より強い表現で量的緩和拡充の意図を語ることで、時間を稼ぐ戦術に頼るのではないか。

折からFRBと財務省の関係がややこじれている。FRBのコロナ支援策予算枠50兆円相当が未使用として、ムニューシン財務長官は「返還」を要求したからだ。そこでイエレン次期財務長官の存在が市場には安心感を与えている。
イエレン氏登場までは波風立てずに凌ぐことが得策ともなろう。

さて、昨日の「しぶこ」原稿は一般メディアでも採り上げられ、グーグルで「しぶこ」と検索すると「トップニュース」として出るまでになりましたよ。個人的には色気出して、「これでGOLDとはおさらば、GOLF評論家になるか(笑)」との期待を家族に語ったら、そのゴルフの腕では「無理、無理!!」と一蹴されました(笑)。
まぁ今、最も入れ込んでいるのは「スキー」なんですけどね。

なお、GoTo停止と、看護師など現場で命がけの医療従事者への制度的な金銭的支援は本欄でも書いてきたことなので、やや遅きに失した感はあるが良い方向と思います。GoToのような旅行飲食需要刺激策は人の移動を増やすから、本当に明日にも困る中小企業(飲食店含め)や失業者に対しては、米国流にピンポイントで金銭的支援増はすべきだと考えます。そこで不正利用者も出るでしょうが何をやっても不心得者は消えません(性善説は夢)。ざっくりでも、まずは救いの手を差し伸べるべきでしょう。落ち着いたら不正摘発すればいい。

2020年