2020年7月20日
以下は日経マネー筆者コラム「豊島逸夫の世界経済の深層真理」の元原稿。主として株の話です。
ウォール街のプロたちの間で反省機運が強まっている。
今回のコロナ相場。結局、NY市場で底を拾ったのは所謂パパママ投資家たち。
プロたちが悲観的観測を発信。機関投資家も株のポジションを削減するなかで、米国個人投資家は「プロからの警鐘」に耳を傾けることなく、粛々と安値を買っていた。3月のグーグル検索データでは「株の買い方」「ダウジョーンズ」などの用語が上位にあった。しかし、彼らの行動がメディアで報道されることは稀であった。「コツコツ」という地味な動きなので目立たなかったのだ。
その後の大反騰局面でも彼らの多くは売らずに買い持ちを継続した。プロは「実体経済から遊離した株式市場の過熱」を語り、カリスマ投資家たちが相次いで経済テレビ局の番組に生出演して、警鐘を鳴らしていた。あのバフェット氏でさえ航空会社株を全て売り払った。その後、同セクターの株価は50%を超す規模で反騰した。
そして、極めつけは5月の雇用統計。
プロによる事前予測は非農業部門新規雇用者数がマイナス800万人前後であった。それが蓋を開けてみればプラス250万人。毎週発表される新規失業保険申請者数の激増にばかり目を奪われ、その間、進行していた再雇用の波を見過ごしていた。株価が実体経済から遊離しているとの議論が怪しくなってきた。
そもそも、米国でも個人投資家マネーは老後に備えコツコツ投資しつつ貯めてきたおカネだ。対して、コロナ相場に踊るプロの行動はFRBの対コロナ有事対応で巨額のマネーがばら撒かれるのを期待した動きだ。この種のマネーの動きが顕在化しているセクターが社債市場である。
パウエル・バズーカと称される未曽有の量的金融緩和策は多岐にわたるが、その多くが未だ実行されていない。特に、社債の購入は新たな政策として今回の「目玉」であるが、6月月初時点で未だ社債が購入された具体例はゼロである。パウエル議長は、「内部の準備に手間取り6月には開始予定」と議会公聴会などで説明してきた。FRBが社債を購入するときには、企業名や購入金額・日時など詳細が開示されることになっている。しかし実際の購入事例としては社債ETF少額が挙がっているだけなのだ。
しかし、マーケットはパウエル・バズーカの全てを織り込み社債市場は機関投資家の買いで活況を呈している。FRBが実際に行動せずとも「アナウンスメント効果」だけで十分に政策効果が得られるではないか、との議論まで出て来ている。
社債市場に関して、筆者が最も注目した事例はアマゾンの起債事例だ。3年債100億ドルを0.4%の超低金利で調達出来た。米国3年債に限りなく近いイールドである。ちなみに同社が2017年に3年社債を発行したときのイールドは1.9%であった。至れり尽くせりのFRB支援があればこその調達金利0.4%なのだ。入札も発行量の3倍に達した。イールドを求める機関投資家の姿勢は益々強まっている。
では、日本株はパウエル・バズーカのおこぼれに預かれるであろうか。欧米市場のプロたちが日本株をどのように見ているのか。
結論から言えば、日本株は、外人投資家の中でもCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)など短期投機家集団が売買攻勢を仕掛けて動かせるセクターとの認識は変わっていない。
総じて、秋にコロナ第二波が勃発する場合に日本株に売り攻勢を再び仕掛ける目論見が透ける。その時点で日経平均2万円以上の水準であれば売りとの相場観が目立つ。彼らにとって「日銀の買い支え」が「厄介な存在」のようで、「官製相場」との認識が日本株への興味を削いでいるのは間違いない。コロナ対策に関しては、死者が少ない「日本モデル」がたしかに欧米で成功事例として注目されることがあるが、その理由が未だ釈然とせず「結果オーライ」と評価されがちだ。第二波対応に際して参考となるべき第一波の経験に不透明感が漂うことが、欧米投機筋の日本株「売り先行」を誘発しやすい、とも言える。日本人個人投資家はインバース型ETFを好むので売りを仕掛けやすいとの呟きもあった。米国人個人投資家との違いが鮮明である。