豊島逸夫の手帖

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パウエル・イエレン体制、円高神話崩壊へ

2020年12月1日

「円は安全通貨?それは一昔前の話だね。現在の基本認識は米ドルが安全通貨、或いは低リスク通貨。ワクチン開発進展とか記録的株高でリスク選好度が強まり、米ドルが売られている。そこで買われるのはユーロ、人民元そして新興国通貨。ドル円への注目度は低く、やや円高気味という程度。」

NYのヘッジファンドに見られる典型的な外為相場観だ。
NY市場でドル高ドル安を論じる時、ドル円相場を前提に語る人は日本人くらい。暗黙の前提としてドルユーロ相場が想定されている。

筆者も未曽有のコロナリスクと対峙する外為市場では、90円台まで円高が進行しても全く不思議はないと考えていた。しかし現実は円高と言ってもせいぜい103円程度だ。
FRBも日銀も金融政策の「弾薬」は尽きてきた。日米金利差も大きな変化の兆しが見られない。
その結果「ドル円は膠着」とも言われる。外為相場を生業としている人たちには「このままでは干上がってしまう」との危機感が漂う。ボラティリティー(価格変動)に欠ける相場にマネーは寄り付かない。しかし実業の世界では、やや円高でも現水準に留まるなら「膠着」ではなく「安定」で重大な為替リスクを懸念せずに年度経営計画を立てられるので歓迎との見解が少なくない。

バイデン時代になってもパウエルFRB議長とイエレン財務長官のコラボで2021年以降コロナ禍を乗り切るとの楽観論が増えてきた。ゼロ金利政策継続で国債での資金調達コストも抑えられ、ゴールディロックス状態が現実の話題となっている。国債増発による悪性インフレも実質金利がプラス圏になるデフレも回避できるとの見立てだ。

イエレン氏は早速ツイッターのアカウントを開設して11月30日に初ツイートを発信した。

「我々はアメリカンドリームを回復して挑戦しなければならない。」との強い意志表明が綴られている。コロナ感染拡大が深刻度を強める中で、市場では「マーケットフレンドリー=市場に友好的」と受け止められ好感度は高い。市場を荒らすトランプツイートとの違いが鮮明だ。結果的にリスク資産が買われ、低リスク通貨として米ドルが売られ、ドル安が米株の追い風になるという好循環になっている。

興味深いのは外国人投資家の日本株買いに関しても為替リスクが限定的という点が追い風となっていることだ。円高にせよ円安にせよリスクは許容範囲内なので為替ヘッジの必要性も薄まる。日本企業の本当の「稼ぐ力」が問われているとも言えよう。

そしてドル安トレンドはドル建て金価格には追い風。更に円高も限定的なら円建て金価格もいずれ上昇が見込まれる。NY金高と円安の同時進行という今年見られた状況が来年も繰り返されるかもしれない。

足元では当然来るべき調整局面の真っ只中。下押しムードが強い。しかし11月27日本欄に記したようにNY市場では2021年2000ドル回復説が主流だ。メディアでは「金の輝きが薄れた」との論調が出始めていることと対照的である。筆者流に言えば、虫の目で見れば弱気。魚の目でも鳥の目でも強気ということになる。

さて、全面的にテレワークに切り替えて感じることは、以前より海外からリアルタイムでネット経由情報がひっきりなしに入るようになって、情報量が増えているという結果だ。相手方も在宅なので話も長くなる。当然様々な話題が広がるという連鎖だ。株、外為、債券、商品と各市場にわたって会話も盛り上がる。個人的にもテレビドラマなど観るよりリアリティーがあってエキサイティングな日々だ。

自宅では粗大ゴミ扱い(笑)で、唯一の味方は猫ちゃんか~~。

2020年