豊島逸夫の手帖

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「コロナと戦い生還した男」の評価は?

2020年10月6日

主治医は「未だ予断許さず」と語った。それでもトランプ大統領は早期退院を強行した。大統領選挙で巻き返しを図り「コロナと戦い生還した男」のイメージを訴求しているかのようだ。報道陣の写真撮影の場では早速マスクを取ってみせた。既にホワイトハウスにはクラスターが発生。スーパースプレッダー(コロナ拡散の中核人物)は誰か。米国メディアはトランプ流に言えば「魔女狩り」に走っている。既にホワイトハウス内の感染拡大で実質的に指令本部「空洞化」のリスクが指摘される。トランプ大統領退院で政治混乱が回避されたとの実感は薄い。

今、市場が意識せざるを得ないシナリオは、まずトランプ氏の容体急変、再入院リスク。大統領もコロナも気まぐれゆえ、主治医が語ったように「余談を許さない」。

次に、ムニューチン財務長官の感染リスクだ。マーケットが現時点で最も注目しているのは、トランプ氏退院より、兆ドル規模の追加経済対策案の議会での審議進展状況と言ってもよい。頼みはムニューチン財務長官とペロシ下院議長の間に敷かれているとされる「ホットライン」。ここで万が一ムニューチン氏が第一線から退くことになれば、同案の議会合意は大統領選挙後にもつれ込むであろう。市場は昨日のダウ平均465ドル高により、議会合意を先取りする形で織り込みつつある。ムニューチン氏にはホワイトハウスに出入りせず、トランプ大統領との連絡もリモートに徹して欲しいということが市場の切なる願いだ。

昨日のNY市場で最も注目された現象は、債券市場で米10年債利回りが0.77%まで急伸したこと。追加経済対策が決着すればインフレ期待も高まり、実質イールドのマイナス幅は更に拡大するとの見立てだ。先走り気味だがマーケットは時ならぬ「リスクオン」に傾いている。NYの外為市場では「円ではなく米ドルこそ安全通貨」との認識が強いので、ドルは売られ、ドルインデックスは93台まで下落した。しかし安全資産とされる金は買われ、1910ドル台に乗せた。ドル安が効いている。

一般メディア、そして米国民の関心は圧倒的にトランプ氏退院にあるが、NY市場は支持率でかなり水を開けたバイデン有利を前提に動き始めている。追加経済対策も民主党案は2兆ドル超規模で、共和党案より「大盤振る舞い」だ。

健康状態が不安定なトランプ大統領は徐々にレームダック化してゆくのか。或いは今や「自らの体験」としてコロナを語れるトランプ氏が「未決定層」に食い込めるのか。

バイデン氏が粛々と大統領選挙戦を展開する中で、帰趨を決めるのはやはりトランプ氏次第の如き情勢となってきた。

2020年