豊島逸夫の手帖

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ビットコイン高騰、FOMCに不信任票

2020年12月17日

注目のFOMCパウエル議長記者会見。
いきなり核心を突く質問が出た。

声明文では量的緩和の期間についての表現を、これまでの「今後数か月」から「完全雇用と物価安定に近づくまで継続」に変えたので、「具体的な時期は如何」と突っ込まれたのだ。

答えは「これでも力強い表現だ」と抽象的で自画自賛気味の答弁。その後もパウエル氏は珍しく大きなジェスチャーが目立った。講演中に適当な表現を捻り出す時は、その心理的圧力から自然に手を上げたり振り回したりするものだ。言質を取られないための配慮が滲んだ。

市場の関心は2021年経済成長見通しが4.0%から4.2%に引き上げられたことだ。2021年1~3月期はコロナ情勢最悪が必至で民間ではマイナス成長の数字も飛び交う。通年で4%以上ということは春以降に急速な経済回復を見込むことになる。抑制されてきた設備投資や個人消費が一気に噴出するシナリオであれば、追加緩和は不要ではないかとの素朴な疑問も芽生える。

とは言え、既にFRBの資産規模がコロナ危機に7兆ドルへ急速に膨張していることが目立つ。振り返ればコロナ勃発前はFRB適正資産規模の議論で3~4兆ドルの数字が出ていた。記者会見でも「量的緩和のテーパリング(縮小)」についての質問も出たが、「いずれはそのような議論も出よう」程度ではぐらかされた。しかし先取りして動く市場ではそろそろ「資産圧縮」開始時期についての観測も出始めている。「2023年までゼロ金利継続」について、今回は一人だが反対意見が出たこともドットチャート(FOMC参加者の金利予測分布)で判明した。利上げに至ってはパウエル議長がこれまでは「考えることさえ考えたことがない」とまで言い切ってきた。今後これが「考えることは考えた」程度に変化すれば潮目変化の兆しとされよう。

総じて、超金融緩和政策の出口らしき光が長いトンネルの遥か先に点灯したか?程度の変化が今回のFOMCを通して感じられる。それでも真っ暗闇のトンネルとは印象が異なる。

ここは日銀にとっても「要経過観察」事項となろう。
FRB主導ドル安による「とばっちり円高」への対応に有力な政策手段が見当たらない以上、他力本願の円安に頼るしかない。

なお、FOMCのたびに世界的な傾向としてマイナス金利時代の金融政策の限界が議論される。筆者の友人ジム・ロジャーズ氏などは極論だが一貫して「FRB不要論者」だ。
そもそも7兆ドルにも膨れたFRB資産規模を4兆ドルに戻すテーパリングなど実際問題として不可能と切り捨てる。

この中央銀行に対する懐疑論調が拡散して、現在進行中のビットコイン高騰の一要因となっている。
そのビットコイン相場がFOMC当日に初の2万ドル突破という展開になったことも示唆的だ。

今回のビットコイン高騰のキッカケは、ソロス氏の右腕として名を馳せたドラッケンミラー氏やポール・チューダー・ジョーンズ氏など、米国カリスマ投資家が相次いでビットコインを投資手段として認知して購入を示唆したことだった。共通した認識は「未曽有の量的緩和の後始末に関する不安」である。

このカリスマ投資家のお墨付きに乗り始めたのが運用難に悩む機関投資家だ。
JPモルガンは早速先進主要国の年金・保険関係投資総額を60兆ドルと推定した上で、その1%が暗号資産市場に流入すれば6000億ドルに達するとレポートした。暗号資産市場の時価総額3300億ドルの倍近くに匹敵する額との試算である。

実例も出始めた。
米保険大手マスミューチュアルが1億ドル相当のビットコイン購入を明らかにしたのだ。同社は米保険業界のオピニオンリーダー的存在とされ、横並びで買いの連鎖が想起されている。
勿論、機関投資家がFRB不要論者というわけではない。
コロナ後の超金融緩和・財政拡張政策の出口問題を保険会社など長期投資家がリスクシナリオとして認知し始めたということだ。

市場にとって心強いのは「J-J」連携。ジャネット・イエレン氏とジェイ・パウエル氏のイニシャルをとった最近ウォール街で流行りの新語だ。
J次期財務長官はFRB議長退官後バーナンキ元FRB議長との壇上対談で「私はあなたの始めたこと(量的緩和)の後始末役となったのよ。」とジョークを交え語ったことがある。
そして今回は米国債増発の後始末とバイデン増税の実行役という「貧乏くじ」を敢えて引いた。
2021年、マーケットのキーワードはJ-Jとなりそうだ。

なお、ビットコイン2万ドル突破で2000ドルを維持できなかった金はやや「去勢」されたかの如き印象。
但し、ビットコイン相場の価格変動は異常ゆえ、金の安定度の評価は根強い。
価値の交換手段としてはビットコインに軍配が上がるが、価値の保存手段としては金が絶対優位に立つ。

先日、本欄に書いた件の続報です。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-12-16/QLES7ET1UM0Z01

2020年