豊島逸夫の手帖

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JPモルガン、貴金属不正取引で千億円の罰金

2020年10月9日

米国司法省、CFTC(商品先物取引委員会)、SEC(証券取引委員会)の合同調査で、JPモルガン・チェースのトレーダー(複数)が価格操作の容疑で告発されました。司法取引で当該トレーダーたちは執行猶予になるようです。銀行に課される制裁金は日本円で1000億円ほど。過去最大額です。

その手口は実にお粗末と言うか、原始的な方法です。まず大きな売買注文を出し「気配値」を切り上げ、カモになる相手方が乗ってきたところでその大きな売買注文を引き下げて(キャンセルして)しまうのです。NY市場で意図的に気配値を切り上げると、同時刻のロンドン市場では実際にその気配値を信じて売買が実行されるケースを筆者も目撃したことがあります。その後でNY市場の当該トレーダーは注文を降ろしてしまうのです。結果的にロンドンの連中が梯子を外されて怒っていました。

現代ではアルゴリズムのコンピューター売買が席捲していますが、コンピューターもこのトリックを見抜けず、まともに売買を執行してしまうケースが少なくありません。「コンピューターなんて、ちょろいもんよ」というような書き込みが発見され報道されています。

2010年の金融改革法(ドッドフランク法)でこの種の売買操作は固く禁じられたのですが、はっきり言ってこういうケースを立証・立件するのは極めて困難です。司法取引で減刑されているということから推して、おそらく内部告発があったのでしょうね。

一般的にトレーダーの世界は対カンパニーへのロイヤルティー(忠誠心)は薄く、横の繋がりの方が堅い傾向があります。ギルド的ですね。筆者も今日に至るまで、こういうトレーダー仲間のグループ(同窓会のようなもの)に入り、専らNY市場の生情報を得る機会として利用しています。

なお、同様の不正取引が米国債市場でも行われて告発されています。

2020年