豊島逸夫の手帖

2020年10月27日

昨日のＮＹダウは一時９６５安まで急落後、６５０安で引けた。なお、金は１９００ドル前後で殆ど動かず「蚊帳の外」気味。嵐の前の静けさと今週になって感じている。市場エネルギーがマグマの如く蓄積しているみたいな。大統領選挙後には来年前半に２２００ドルくらいには上がるのではないか。ＶＩＸは昨日３２と危機水準まで急騰中だし。

さて、バートン・マルキール氏と言えば「ウォール街のランダム・ウォーカー」の著者で伝説の投資理論家だ。相場が上がるも下がるもランダム（予測は不可能）と説く。Ｂｕｙ　ａｎｄ　ｈｏｌｄ（長期保有）を一貫して勧め、インデックス投資の理論的支柱となっている人物である。

そのカリスマが昨日のＮＹ株急落についてメディアに緊急生出演してコメントした。
「（株は）売るな！ワクチンも追加経済対策もいつかは来る。投資家が売り買いのタイミングを判断しても詮無きこと。長期インデックス投資に徹しろ。」

更に、ＥＳＧ投資重視傾向にも批判の一石を投じた。
「企業の良し悪しも容易に判断できるものではない。特にＥＳＧ投資を看板にするＥＴＦには要注意だ。ＥＳＧの条件を満たす企業か否かを区別するのは難しい。ＥＳＧ投資なら、せいぜい再生エネルギー関連くらいか。」
これに対してはウォール街内部からも賛否両論が出ていたが、８８歳にして健在の御大である。語り口は明快だ。１０歳以上年下の二人の大統領候補者の討論より要点をまとめ分かりやすい。

さて、その件のＮＹ株急落だが「青い波」を織り込みつつあった市場に、これまた一石を投じる結果となった。
欧米で深刻な感染再拡大が進行中だが何せタイミングが悪い。大統領選挙の前週だ。今こそ追加財政支出が喫緊の課題なのにその可否が政争の種にされている。昨日はＮＹ寄り付き前にカドロー国家経済委員長がテレビ生出演で「交渉はスローダウン」と語った。メドウズ報道官は「コロナウイルスが制御不能の可能性」に言及した。一般メディア報道では全米各地で地域限定のロックダウンが検討中と報道される。例えばユタ州ソルトレークシティーでは医療破綻寸前で一般診療サービス提供の割り当て制が検討されている。別の事例では学校再開がオンライン学習へ逆戻りの可能性も指摘される。

春の全土ロックダウンに比し「ロックダウン・ライト（軽い）」とされるものの今後冬季にかけ予断を許さない。

市場が懸念するのは１１月３日（投票日）から１月２０日（大統領就任式）まで政治空白期が生じるリスクだ。その間にコロナ「冬の波」が急速に悪化すると政治的対応が後手に廻るかもしれない。バイデン勝利でも、レームダック化したトランプ大統領が選挙結果を認めずホワイトハウスに居座るシナリオも絵空事とは言えない。上院選挙もかなりの接戦が予想され、ネジレ議会のまま決められない状況も考えられる。
その結果１０～１２月期の経済成長率回復も危ぶまれ、同期の企業業績への影響が懸念される。
折しも今週はＮＹ株式市場の決算シーズンと重なる。
特に２９日木曜日が「スーパーサーズデイ」と呼ばれ、アップル、アマゾン、フェイスブック、グーグルなど主要企業の決算が集中する日となる。

なお、先週の両大統領候補テレビ討論会でトランプ氏がウォール街からの政治献金について、バイデン陣営の方が遥かに多くの額を受け取っていると批判したこともウォール街の話題になっている。それは事実とみられており、ウォール街内ではバイデン政権誕生に備えた「ヘッジ」と位置付けられている。株価を重視して金融規制緩和路線を歩んできたトランプ氏に対して、バイデン氏は「トランプ氏が株価ばかり心配している。」とマーケットとは距離を置く発言を繰り返している。バイデン増税もやはり気になる。カリスマヘッジファンドのポール・チューダー・ジョーンズ氏は「民主党勝利なら株価はまず急騰しようが、その後増税効果がジワリと企業決算を下押しする。」と予測して話題になった。
そこで「当選の節はお手柔らかに」とばかりに政治献金は厚くしておくことがバイデンリスクヘッジとなるのだ。
トランプ氏再選でトランプ相場継続シナリオの方が「無難」とのウォール街の本音も透ける。
マーケットアナリストたちはペンシルベニア、ミシガン、ノースカロライナなど、どの激戦州でトランプ氏が勝利すれば全土の獲得票数競争では及ばずとも大統領選挙には逆転勝利できるか、シミュレーションに余念がない。

かくして深堀りすればするほど選挙後の市場予測は視界不良となり、「青い波」を先取り気味のマーケットは反省モードに入っているのだ。

最後に今日の写真。
四国は八幡浜特産の「富士柿」。富士山の形で大きい！味は私好みの柿にしてはあっさり系。濃厚な柿の味が好きな人には物足りないかも。
行きつけの誠鮨＠お茶の水サンクレールにて。