2020年10月22日
21日のNY市場では二つの興味深い現象が見られた。
まず、債券市場で米10年債利回りが0.82%に上昇したのに外為市場では104円台半ばまで円が急伸したこと。
次に、商品市場ではLME(ロンドン金属取引所)で銅価格(3か月先物)が6964ドルと2018年6月以来の高値をつけたこと。金も1920ドルまで上がったが銅の上昇スピードの方が速い。
銅は産業用メタルの代表格で純粋なコモディティーだが、金はコモディティーとマネーの二面性を持つ。それゆえ先行き景況感が不透明な市場環境では金銅比価が注目され、銅の方が割高になると実体経済好転の兆しと見られる。
この二つの現象の背景は議会でもめている2兆ドル規模の米国追加財政支援策に今なお一抹の希望が残ること。更にバイデン政権誕生の確率が高まり、1兆ドル規模のグリーンエネルギー関連主体のインフラ投資が期待できることだ。
商品市場の視点では風力発電から電気自動車まで銅の用途は多いのでバイデン政権となれば需要急増が見込まれる。更に中国が最大消費国だが習近平氏の「2060年にCO2排出ゼロ」目標のもとで国家的備蓄を増やしているとされる。
一方、債券市場ではバイデン政権の大型インフラ投資を先取りしてドル金利が上昇している(債券が売られている)。
外為市場では特にNY市場で米ドルが「低リスク通貨」とされているので、財政主導でリスクオンの兆しが出ると売られやすい。因みに昨日の場合はブレグジット交渉の進展が見られ、ポンドとユーロが買われたこともドル売りを誘発した。
かくしてバイデン氏当選を前提とした「リフレトレード」にヘッジファンドの一部が動き始めた。
前回の大統領選挙では事前予測を外しているので「大声では言えないが、じわりとバイデンモードに運用配分を切り換え」との声が聞こえてくる。
なお、市場の注目は米10年債利回りが心理的節目とされる1%の大台を突破する可能性だ。現在の0.8%台から1%への上昇は、ゼロ金利時代ゆえ債券市場ではかなりの「イールド急騰」と見なされる。
それが1%までなら健全な経済回復を映す金利上昇と解釈されよう。しかし1%を超え続騰となると、大型財政出動に伴う米国債大増発懸念が市場内で頭を擡げる展開も視野に入り、株式市場も警戒モードに入るだろう。FRBも金利上昇を抑え込む方向に動くシナリオが考えられる。その場合には残る金融政策ツールは限られているが、量的緩和で相対的に長期国債の購入割合を増やすことが選択肢として浮上しよう。
かくして大統領選前に既にマーケット内では潮目の変化が見られる。
その中で円がトバッチリで買われていることが日本の株式市場では警戒視されよう。
金価格はそろそろバイデン政権誕生を視野に大統領選前から先走り気味の新規買いが出始めた。この買いが膨らむとバイデン当選の報道で「噂で買ってニュースで売る」ヘッジファンドが出てくるかもしれない。あくまで短期的な話だが。一方で中長期マネーもじわりとバイデン当選を織り込み、それでも選挙は水物ゆえ何が起こるか分からないので慎重に慎重に買いを始めるだろう。リスクシナリオはトランプ氏が負けても郵便投票の無効を理由にホワイトハウスに居座る可能性だ。これははっきり言って始末が悪い。市場は不透明感に満ち、金もトバッチリで短期的なれど換金売りに晒されるケースも無視できまい。