豊島逸夫の手帖

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コロナ第二波、景気二番底、財政支援第二弾に注目

2020年10月20日

欧米でのコロナ感染が日々悪化する中で、トランプ大統領のコロナ対応が市場の不透明感を醸成している。

コロナ第一波の際には政権内にコロナ対策チームを設置。ペンス副大統領をリーダーに指名。今や国民的英雄のような存在となったファウチ国立アレルギー感染症研究所所長もメンバーとなった。連日記者会見も開催され、NY株価がその時間帯に反応する事例も珍しくなかった。

ところが本格第二波が欧州から米国へ転移の兆しを見せる中で、同チームの記者会見は一切行われていない。ファウチ氏もチームから外された。「ファウチは災厄(disaster)だ。彼の言うことを聞いていたら死者は50万人になったであろう。」とまでトランプ氏は言い切る。代わってチームの顧問に任命されたのが神経放射線医のアトラス氏だ。感染は放置して集団免疫獲得を目指す戦略を標榜する人物である。トランプ氏も遊説先でマスクを着用せず、コロナ感染を克服したとの強者のイメージを訴求して、マスク依存は弱者の如く語る。それに対する批判が高まるほど、トランプ支持者は団結を強め、感染リスク等に関わらず実際に投票行動する確率が非常に高い集団となっている。

かくしてコロナ感染第二波の衝撃で景気二番底の可能性もちらつき始め、経済支援策第二弾発動が喫緊の課題となってきた。米国では国民一人当たり1200ドルの給付金、失業保険週600ドルの上乗せ、そして中小企業への特別支援(PPP)が既に終了しており、その再発動を巡り議会で瀬戸際の交渉が続いている。経済対策が後手に回れば必要な財政支出は増えるばかりだ。今日なければ明日はないとの緊迫感も漂う。ペロシ下院議長は週末に48時間以内という具体的目標を明示して共和党に決断を迫った。その期限がNY時間本日に来る。NY株式市場も週明け19日には、ムニューシン財務長官とペロシ氏との話し合いが継続していることを好感して、寄り付きはダウ100超上げで始まった。しかしワシントンポスト紙が同交渉に悲観的記事を流すや、一転ダウはマイナス圏に沈み、結局前日比410ドル安で引けた。ところが日本時間午前4時から「53分」にわたり両氏の電話会談が行われ、ギリギリでの合意の可能性も浮上するや、時間外でダウ先物は100ドル超反発している。

マーケットは包括的合意に至らずとも部分的合意案が成立すれば良しとする。しかし現実的には溝がなかなか埋まらない。例えばウイルス検査と感染者追跡調査費用を巡り両党の見解の摺り寄せに時間を要している。言葉の問題なのだが民主党がshall(する)と表現する箇所を共和党はmay(するかも)に拘る。更に「必要だ」か「望まれる」かの差も譲れない一線となっている。

追加財政支援の総額も民主党案の2.2兆ドルに対して、共和党が徐々に歩み寄り1.8兆ドルに加えて多少「色を付ける」姿勢だが、それ以上の妥協は党内で反発が強い。

なお、共和党が過半数を握る上院では再開する学校への援助、失業保険上乗せ、中小企業支援(PPP第2弾)に絞り5千億ドルの部分的支援案が議論されているが、民主党は包括合意にこだわるスタンスだ。

結局コロナ対策財政支援という経済政策が選挙戦の材料として扱われている。劣勢のトランプ陣営から見れば、事前投票も記録的なペースで進む中、大統領選挙前の追加的財政支援策決定も賞味期限を過ぎた印象がある。民主党の視点でも既に支持率でかなり水をあけたので、ここで敢えて共和党と妥協する姿勢を見せる必要性も薄まっている。
もはや拘っているのは市場。そして何と言っても失業者や中小企業にとっては死活問題となる。
米大統領選も最後の幕でエンディングのシナリオが見えない。

金価格は昨日1920ドルまで急騰後、1900ドル台まで反落。株やドルとの相関関係も一定せず乱れ、大統領選挙まで「漂流中」という印象である。

さて、今年はコロナでNY出張もできず、生の情報が取れないかと思いきや、逆に得られる生の情報が増えている。NYの相手方の連中も在宅が多く、ネット会議などでじっくり話す機会が増えているからだ。ウォールストリートジャーナルやフィナンシャルタイムズの記者たちの取材先の人たちと一足早く直接話せるわけで、これまで築き上げた人的ネットワークに感謝している次第。

2020年