豊島逸夫の手帖

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トランプ氏朝令暮改、市場は次期政権視野

2020年10月12日

「ゴー!ビッグ!(大きく行け!)」
先週金曜のNY市場ではトランプ氏のこの一言ツイートでNY株価が急伸。ダウ平均は161ドル高で引けた。金は30ドルほど急伸。1920ドル台で推移している。
「大きく行け!」とはコロナ対策としての包括的追加財政支援の金額のことだ。

そもそもムニューシン財務長官とペロシ下院議長の間でまとまりかけていた包括的経済支援案に対して、トランプ大統領は突然のツイートで「交渉打ち切り」を告げ、代替案として部分的支援案を提示していた。株価は急落していた。
支持率も急落する中でさすがに考え直したのか、9日金曜日に再びツイートで「大規模の包括的支援案で行け!」と態度を一転させたのだ。
相変わらずの朝令暮改だが株式市場にとって悪い話ではないので株価は上昇したわけだ。

新トランプ案では総額を1.6兆ドルから1.8兆ドルに引き上げている。しかし2.2兆ドルの民主党案との溝は容易に埋まらない。
ペロシ氏もコロナ検査・追跡調査費、失業保険金上乗せ金額、そして子供への支援が不十分とトランプ案を一蹴した。

更に共和党内部からも既にコロナ対策財政支出が3兆ドル近くに達するので、これ以上の大型追加支援は「やり過ぎ」との批判的見解が噴出している。
共和党議員からの不満を突き付けられたメドウズ大統領首席補佐官は「(その不満を)大統領に言上したら私の葬式になる。」とブラックジョークを発している。トランプ氏の病状を「心配」と記者団に語り、大統領から大目玉を食らった経緯もあるからだ。
更にメドウズ氏はムニューシン財務長官と連名で議会宛てに「せめてPPP(既に実行中の中小企業の従業員給与を肩代わりする支援策)に未だ残りがあるので歳出に廻せる。」と訴えている。

一方、我が道を行くトランプ氏自身は週末にラジオで「はっきり言おう。私は共和党案よりも民主党案よりも大きな額を考えている。」と語った。
この時はさすがに「殿、ご乱心」とばかりにホワイトハウス報道官が「トランプ政権としては2兆ドル以下を望んでいる」と火消しに走った。
見かねたパウエルFRB議長は「財政支援が多すぎるリスクより少なすぎるリスクの方が大きい」と議会に合意を促している。
しかし、現時点で米議会の関心はコロナ対策追加支援より最高裁判事新指名に関する承認公聴会にある。

かくして二転三転するトランプツイートに痺れを切らせた市場は年内追加財政支援合意を見切り、バイデン政権下で見込まれる大規模インフラ投資の方を織り込む方向に動き始めている。
各種世論調査がブルーウェーブ(民主党、大統領選に議会選も勝利のシナリオ)の確度が高まりつつあることを示しているからだ。
焦る現職大統領はコロナ感染からの「全快」を強調して、選挙戦に自ら再参入の意向を明確にしている。多くの米国民が不安げに見守る中で、NY市場は2021年予想されるマクロ経済シナリオを吟味中である。

なお、NY金は最近NY株価と正の相関傾向を強めている。その理由はNY株が上がると、NY外為市場で「安全通貨」とされる米ドルが売られ、ドル安になるからだ。足元でドルインデックスも93を割り込みそうな情勢である。東京市場では「円こそ安全通貨」との見方が常識的となっているが、NY市場では円も安全通貨の範疇に入るものの、やはり「ドルこそ王様」と見られているのだ。米国人の自負心とでも言えようか。この市場による受け止め方の違いは認識しておく必要があろう。

最後に以下の記事が出た。

中央銀行、金買い鈍化鮮明 8月は1年半ぶり売却転換
市況高・コロナ禍受け利益確定

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64826930Z01C20A0QM8000/

2020年