豊島逸夫の手帖

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金、どこまで下がる

2020年9月25日

国際金価格は1850~70ドルのレンジで推移しています。つい最近まで1950ドル程度の水準の話をしていましたから、約100ドル切り下がりましたね。ここで注目は1850ドルという心理的節目です。ここを本格的に割り込むと1700ドルまで覚悟する必要があるでしょう。それでも1700ドルは歴史的には高水準です。2000ドルを見てしまったマーケットにはショックかもしれませんが、長期投資家目線では十分に上がった水準と言えましょう。
勿論1850ドル台まで下がると出遅れ組の買いがかなり出ていますよ。
なお、円建て金価格は円相場が「若干」円高に振れた分だけ上がりにくくなっています。

さて、以下は昨日の朝日新聞への寄稿文です。

「金に何が起きているのか」

コロナ禍で放出された紙幣、インフレへの懸念。不安定な時代に、金本来の価値が見直されています。個人の金投資について、金の第一人者、豊島逸夫さんが指南します。

 米国で「投資の神様」と言われるウオーレン・バフェット氏が金投資を始めたことが話題になっています。同氏は、大の「金嫌い」でした。「金なんて、何も生み出さない。ただ輝くだけで、役にたたない」とこき下ろしてきました。それだけに、この「宗旨替え」とも映る投資行動が注目されたのです。今年卒寿を迎えた同氏の「金への変心」は、カリスマでさえコロナ禍の経済を憂いていることの証しとも言えましょう。
 この未曽有の危機に対応するため、世界の主要中央銀行(含む日銀)は、前代未聞の規模でマネーの大放流を続けています。「劇薬」ですが、世界の経済を守るためにはやむを得ません。しかし、兆ドル規模のマネーは、最終的に誰が負担することになるのでしょう。増税で賄うには余りにも額が大きすぎます。結局、金融当局が紙幣を増発するしかないのです。
 こうなると、世界の投資家たちは、紙幣である「通貨」の価値が薄まってしまうことを懸念し始めました。放置すれば将来インフレのリスクがあります。そこで、大量に刷られ価値が目減りしてしまうことがない、という点で注目されたのが「金」なのです。金は数億年の天然現象で地中に出来た資源ゆえ独自の希少価値があります。紙幣は国が発行するので国の信用が揺らげば価値が下落します。しかし、「無国籍通貨」と呼ばれる金に発行国はありません。いくらでも刷れる円・ドル紙幣と刷れない金の差が鮮明です。これが今年金価格が史上最高値をつけた最大の理由といえましょう。

 では個人投資家は、どのように金を買えばよいのでしょう。
 短期的には金価格は変動するので買うタイミングが難しいのです。ここは、やはり毎月定額で地味に買い増してゆく方法がベストです。株の世界でも、積み立てが主流になりつつある時代です。
 但し、金は金利も配当金も生みませんから、資産運用ではあくまで脇役です。主役の株・債券の調子が悪いときに、価値が上がる傾向があるので、保有は財産の10%程度に抑えるべきです。
 なお、銀行預金はゼロ金利で最近は手数料徴収の事例も出て来ました。国債にはマイナス金利という保有する側が金利を支払うという異常事態が発生しています。預金や国債なら安心という安全資産神話が崩れ、金が浮上中ともいえましょう。
 最後に、積立といえど長期的に価値が上昇する見込みがなければ意味がありません。金は陸の有力な鉱脈がほぼ開発され、残るは海底の埋蔵量です。それゆえ年間生産量は今がピークで、今後徐々に減ってゆきます。これは重要なポイントでしょう。

2020年