豊島逸夫の手帖

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ソフトバンクのヘッジファンド化

2020年9月7日

米国は労働者の日(レイバーデイ)3連休中。
そこに降って湧いたように最近の米国株、特に大手IT企業中心のナスダック急騰急落の影にソフトバンクが関与しているとの報道が相次いで流れた。
アップルなどの主要IT企業のコールオプションを邦貨換算で4000億円超購入、そして売却していたとの消息筋の談話を引用している。

コールオプションは一定価格で買える権利ゆえ、当該株価が安い時に買い、上がった時に売れば儲かる。仮に予測が外れ、その株価が下がってしまった場合には、コールオプションの買い手は「一定価格で買う権利」を行使しなければ損失を手数料程度(オプションプレミアム)に限定できる。

例えばアップルの株価は、ここ数日急落しているとは言え、過去1年間に126%も急騰している。それゆえコールオプション買いトレードは大儲けしていると見て良いであろう。

問題は一般企業のソフトバンクがヘッジファンドの如く株の短期売買に走っていたというところだ。
同社は、と言うより名物社長の孫さんは、これまで自社ファンドを通じてスタートアップの有望新興企業育成のため長期保有で当該株式を購入保有してきた。
ところが最近は、その失敗例が相次ぎ明るみに出て、投入した資金を回収できず、自己保有資産の切り売りを強いられるという厳しい状況にあった。
そこで、おそらくヘッジファンドまがいの投機的と言われても仕方がない株売買に手を出したのであろう。
4000億円という金額は株式オプション市場で「巨額」ではないが、短期間集中売買すれば市場を動かせる可能性は否定できない。

更に、このオプション取引の相手方になった業者の売買も株価の乱高下を増幅させた。
業者の立場では、コールオプションを売った後で株価が急騰すれば買う権利を行使された場合に備え、その株式を買っておかねばならないからだ。こうしてヘッジ買いした後で今回のように株価が急落すると、業者は慌てて買った株式を売ることになる。かくして株価の乱高下が増幅する結果となるのだ。

NY市場では、コロナ禍にも関わらず過去最高値まで上昇を続ける株価と、悪化した実体経済の「遊離」が指摘されて久しい。
それゆえ、異常な株価上昇劇の舞台裏で孫さんが動いていたのかと認識されている。なお自宅待機で時間を持て余す投資初心者たちが、アプリを通じて気楽に株を売買する術を覚えたことも乱高下要因のひとつとされる。FXの世界ではミセスワタナベの存在が今や外為市場の一大勢力になったが、その株式市場バージョンがミレニアル世代を中心に存在感を強めているのだ。

ソフトバンクの件は今後詳細が明るみに出よう。
仮に(そういうことにはならないだろうが)孫さんがバフェットさん同様に金投資にも分散していたら、金市場は反応するかも。

ところでバフェットさんの語録でなるほどと納得した名言。
「毎日地下鉄で通勤してくる人間の話に、ロールスロイスで乗り込む人間が耳を傾けるという珍現象が見られるのはウォール街だけ。」筆者もつつましい2DKのマイホームから都心に出勤してくる人たちが富裕層の顧客の気持ちが本当に分かっているのか理解に苦しむ事例に時折遭遇する。更に富裕層と言っても小金持ちと大金持ちに差がある。一流ホテルで開催される富裕層セミナーに外車で乗り付け、ブランドもので身を飾るのは小金持ち。本当の大金持ちは地味な出で立ちで公共交通機関を使いやってくる。要は目立ち捕捉されることを極力嫌い、本能的に群衆の中に紛れるのだ。セミナーもオープンではなく参加者限定のクローズ型を好む。金に関する質問も、どこまで上がるかではなく、下がるとすればどこまで下がるかを知りたがる。金は守る資産ということを本能的に感じ取っているのだ。バブル時代に業者の言うがままに投資して大損した体験者も多いので、銀行や証券会社を信じない人たちが多いことも特徴である。

2020年