豊島逸夫の手帖

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イエレン氏、国債購入側から発行元へ、増税が難関  

2020年1125

バイデン氏は財務長官候補に本命視されていたブレイナード現FRB理事ではなくイエレン前FRB議長を選んだ。明らかにベテランの「根回し、調整能力」を期待しての人事だ。

市場は「熱烈歓迎」の姿勢である。折から米財務省とFRBの間には異音が生じNY株売りの一因にもなっていた。ムニューシン財務長官がFRBのコロナ対策予算の未使用分を返還せよと要求したからだ。槍玉にあがったのがFRBによる中小企業向け融資と社債購入。異例の中央銀行による民間企業への融資(財務省の信用保証付き)と低格付け債も含むFRBの社債購入は対コロナ金融政策の目玉でもあった。しかし前者は使い勝手が悪いと不評でPPPと呼ばれる財務省の中小企業支援策への方に申し込みが殺到した。一方で社債購入は実際の購入事例が少ないものの「FRB支援」というアナウンスメント効果で社債市場が活性化。企業は市場経由で多額の低利資金調達ができた。かくして残った予算を財務省側は既に期限切れのPPP再発動に充当する思惑が透ける。
この措置にFRBは異例の即反論。対コロナでは共同戦線を採ってきたムニューシン氏とパウエル氏の間に隙間風が漂った矢先のイエレン財務長官人事だ。

更に、最近の市場メインテーマになっている兆ドル規模のコロナ対策追加予算も議会承認に手間取っているのでイエレン氏の調整能力への期待感が強い。FRB議長時代には議会公聴会で政治的意図の強い議員たちからの「いじわる」質問に忍耐強く説明を続けた。FOMC内部でも地区連銀など「うるさ方たち」の地区連銀総裁にじっくり根回しを怠らなかった。行動記録を見ると関係者との面談が極めて多いことがウォール街の話題にもなった。

日本でこんなエピソードもあった。G7「仙台」財務省中央銀行総裁会議でのこと。会議終了後ほぼ全員が帰途についたが、当時のイエレン議長とルー財務長官の二人が会場近くの温泉宿に延泊して、地元の鮨屋を借り切り数時間にわたり「密談」した。本欄読者で当時仙台市側の担当者だった方が使用許可済の現場写真(鮨屋経営者夫妻と4人ショット)とともに披露してくれた。

バイデン政権下では金融政策と財政政策の距離が近くなりそうだ。
コロナ対策として兆ドル単位の長期国債増発を余儀なくされる財務省と、今後コロナ情勢が悪化すれば長期国債購入増など量的緩和拡充も示唆するパウエル議長率いるFRBの協調体制がマーケットでは期待される。財政規律との危うい綱渡りともなりかねないリスクも孕む。

更に、次期財務長官には大きな難問も控える。バイデン増税だ。
企業や富裕層に増税して「格差是正」を目指すバイデン次期政権の財務長官を待ち受ける最難題となろう。コロナからの経済回復路線の頭を叩きかねない政策ゆえ実行のタイミングが重要だ。政策優先順位としては後回しにせざるを得まい。イエレン財務長官の真価が問われよう。

振り返ればFRB議長時代もイエレン氏はハト派ではあったが、結果的には「利上げ、FRB資産圧縮」の引き締め路線を主導する役回りとなった。退官後量的緩和を開始したバーナンキ前FRB議長との壇上対談で「損な役割」と軽いジョークで述懐したこともある。

そして今回は「増税担当」という、ある意味では「貧乏くじ」を敢えて引いた。「増税」という苦い薬をいかにオブラートに包み飲み込みやすくするか手腕が問われる。

さて、金価格は一時1800ドル割れまで続落。
感謝祭連休前の売り手仕舞いが重なった。
今日の日経朝刊マーケット面でコメント(取材時は1830ドルだった。想定より早い売りの波)。「1800ドルが心理的節目。買われて支えられようが、1800ドルを下放れると売りが加速も。」と引用されている。
ここ(1800ドル)が分水嶺。持ち堪えれば(安値圏では実需も活性化するので支えられると思うが)1800ドルを底に反騰へ。
支えきれず本格的に1700ドル台に突入すると200日移動平均線を割り込み、1600ドル台までの下げ基調になりやすい地合い。正念場と言える。
次の材料がワクチン関係だと下げ、米国コロナ対策追加予算が議会通過となれば上げ材料。イエレン氏登場も買い材料。拮抗している。

さて、日経マネー最新号の別冊に金特集。私が監修して、後輩の亀ちゃん、池ちゃんとの3人(強気)対談も入れたので読んでみてね。それからやはり後輩で元住商のボブ高井との(弱気)対談もある。日経マネーには連載コラム「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を書いているけれど、別冊はその「番外編」で金特集という設定。

2020年