豊島逸夫の手帖

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VIX先物高が示す米金融政策リスク

2020年8月28日

ジャクソンホールでのパウエル講演は市場にとって満額回答にはならず、NY株価もダウは上昇、ナスダックは下落とマチマチの結果となった。

インフレ率が長期的に平均で2%を超えてもゼロ金利維持ということだが、年内にコロナ禍が急激に再悪化した場合には、有力な金融政策手段がほぼ尽きている。市場が期待していた量的緩和増額も明示されなかった。財政政策頼みとならざるを得ない。その財政支援政策は未だに共和党と民主党が折り合わず、議会は夏休みに入っている。既に週600ドルの失業保険特別追加給付は期限切れとなり、消費者信頼感指数は下落した。

マーケット指標としてはVIXが5%上昇して24となった。更にVIX先物の動きが不気味だ。10月ものが31、11月ものが30と「危機ライン」に達している。米大統領選挙を控え市場は波乱を懸念している。

債券市場ではインフレ期待を示す10年債利回りが0.75%まで上昇したが、政策金利と相関が強い2年債利回りは0.16%と前日比でほぼフラットである。この長短金利の動きに外為市場も揺れた。当初ドル安で反応したが、その後ドル高に転じたのだ。円相場も一時105円台まで円高が進行したが、結局106円台半ばまで円安となった。パウエルFRB議長がインフレ率は平均で2%超を容認とのことだが、その平均とはどの程度の期間なのか未だ不透明な部分も残る。パウエル氏は「特に数式があるわけではない。」とも語り、金融政策の一定の自由度は確保したがマーケットは当面の方向感を模索中だ。

そもそもジャクソンホールの中央銀行フォーラムを米国金融政策変更発表の場としたことが異例だ。そこで9月のFOMCの注目度が増してきた。
8月も月末が近づき、いよいよ9月相場入りというタイミングでの「歴史的」とも言われる米国金融政策変更は市場に波紋を広げている。

そして金価格はスポットで1980ドルまで急騰後、1907ドルまで暴落。その後1920ドル台で推移している。荒い動きだが頭は重くなっている。1980ドルという瞬間タッチの時はチャートが逆V字型の乱高下だった。常識的に考えればインフレ容認の姿勢はバブルの可能性を想起させ金には上げ材料に思える。長期的にはその通りだと思う。但し短期的には金ETFも先物も買い残高が膨張しており、利益確定売りのタイミングを模索しているのだ。短期的金価格上昇のモメンタムは萎えてきている。まぁここまで上がれば御の字と謙虚に捉えるべきであろう。パウエル議長は少なくとも2021年に向けて金上昇の種を撒いたとも言える。インフレという種である。

今朝の日経新聞朝刊商品面に「金高値、実需が蒸発」との囲み記事が載っている。上海、ムンバイ現地の声が生々しく綴られている。現地の業者にしてみれば金は強気と言われるが、現物買いは引っ込んだまま。高値による買い控えという価格効果とロックダウンにより収入減という所得効果の両面が金現物需要の激減を招いているのだ。同時に下げ始めるとドサッとリサイクル売り戻しが増えるのもいつものことだ。金ETFも金現物需要だがヘッジファンドの買いは長期保有ではないので、中国インド中東など金選好度の高い国々の現物需要とは質的に異なる。

2020年