豊島逸夫の手帖

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ジム・ロジャーズ氏との会話

2020年12月22日

週末、10年以上の付き合いになるジム・ロジャーズ氏とSNSで会話した。

今年同氏は日本株を購入したことを明言していたが、今後も買い増す意向を確認した。
「日本株については、絶対ではないが、強気だ。私は日本株ETFを保有しており、もっと買う。日銀はマネーを毎日印刷して、日本株ETFを買っており、日銀は私より金持ちだからだ。」

更に、円高ではなく「ドル高」と見ている。
「人々は米ドルを安全通貨と見ており、次の相場波乱では米ドルが上昇するだろう。」
同氏は長期的な見地では、日本経済に一貫して悲観的だ。少子高齢化で移民に抵抗感を持つ国の将来は極めて厳しいと繰り返し断言してきた。コロナ前のことだが、筆者がシンガポールの同氏豪邸を訪問するたびに、「シンガポールくんだりまで経済の話をしに来る時間があるなら、もっと子作りに励め!君の国に最も足りないことだろう。」と同氏流の言い回しで諭されたものだ。それゆえ同氏の日本株の長期保有は疑問だ。官製相場に乗れるところは乗ってゆくという「ヘッジファンドの元祖」の割り切りであろう。

米ドルに関して、同氏は常に長期的に悲観的だ。FRBの量的緩和を批判して「FRBなんて要らない」と言ってのけてきた。そもそも米国を見切って、これからは中国の時代と語り、娘たちを中国語学校に行かせるためにシンガポールに一家移住したほどだ。とは言え、多数の人が米ドルを安全通貨と見ている限り、これも当面は保有するということであろう。

なお、同氏は価格予測を「絶対に」やらない。「私はしばしば外すので得意ではない。メディアに出るアナリストたちに聞け。」とジョーク気味に語る。要は相場に将来が映る水晶玉も魔法の杖もないと悟っているからだ。

ウォール街で同氏が最初に働いた会社があったビルに案内してもらったことがある。イェール大学卒だがアラバマ州出身でウォール街には疎く、当初は試行錯誤の試練を繰り返し、若くして巨額の富を築いた。そこで相場は理論通りに動かないことも悟ったのであろう。

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バイクで世界一周した話は知られているが、そこでグローバル感覚を養ったのだろう。実に鋭い「動物的感覚」を持っている。ミャンマーが全く注目されなかった頃に「これからはミャンマーが有望」と同国詣に誘われたことを思い出す。ミャンマーブームが起きる3年前のことであった。

なお、同氏は日本びいき。来日するたびに「鰻丼」を所望する。東日本大震災の当日は、日本応援の気持ちでシンガポールの日本料理店に一家で行ったという。そして当日、暴落した日本株を買うことも忘れなかった。「Buy Disaster 災害は買い」との呟きが印象的であった。
バイデン次期大統領より若干若いが「孫」の年齢ほどの「娘」二人の前では好々爺である。

なお、貴金属に関しては「銀」に注目。いかにもアメリカ人のプロっぽい。米国では1930年代から1960年代にかけて民間の「金」売買が禁止されていたので、代替的に銀投資が盛んになった経緯がある。但し私が日本の一般個人投資家に銀をあまり薦めないのは、市場規模が小さく値動きが乱暴だから。堅気の衆の心臓には悪い。自称「ツワモノ」の方なら何も言わんけど(笑)。ジムは価格変動性が高いのでプロとして好むのだ。金銀比価ももっともらしいけど、コロナという未曽有の危機のど真ん中で過去との比較を論じても虚しい。それは「こじつけ」か「無意味」か、単なる「ポジショントーク、後講釈」か。ジム御大がやるからといって、単にマネするのは危険。日本では銀地金にマニアックな人気があるけど。

最後に、この24時間の金価格変動は興味深い(KITCO24時間チャート)。

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まず、日本時間月曜朝、コロナ変異種勃発で英国発着便軒並みキャンセルの報道で金は急騰、1900ドル超え。ところが1900ドルが壁となり、その後一転、1850ドル台まで短時間で急落。NY時間に入り、買い戻され1880ドル台で推移。

注目点は外為市場でドルが安全通貨として買われたこと。ドル高になると金は売られる傾向。
但し、金もドルもsafe haven(安全資産、安全通貨)と見做されるので、市場ではどちらが優るか予測できない部分がある。こう言ってしまうと身も蓋もないが、その時のマーケットのポジションとかセンチメント(市場心理)次第で決まる。

2020年