豊島逸夫の手帖

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株も金もコロナ暴落

2020年3月13日


まず、明日土曜日朝9時半からBSテレ東「日経プラス10サタデー」にまた生出演して、今週のマーケット総括、今後の見通しを語る。


さて、NYダウは過去最大の下げ幅。日経平均は1万6千円台。
そして金は1640ドル台から1550ドル台まで暴落。
かなりきついがこれまで本欄で繰り返し述べてきた、換金、益出し売りに尽きる。
1700ドルの壁に跳ね返された勢いで1550ドルまで戻ってきた。
考えてみれば、1550ドルまで「暴落」したと感じるのは1700ドルまで見てからであろう。
冷静に見ればまだ高値圏を維持している。


それにしても今回はトランプ大統領の国民向けテレビ演説が逆目に出た。救済案がまとまらない中で発表してしまった。具体性、現実性を欠くと市場の失望感を煽る結果になってしまった。「欧州から米国への渡航30日間停止」など、欧州側から見れば青天の霹靂であった。ホワイトハウス内のスタッフも「そんなの聞いてないよ」。慌てて一夜漬けの救済案作成に追われた。民主党はここぞとばかりにトランプ氏の危機管理能力欠如を指摘する。


FRBはさっそく臨時救済策として1.5兆ドルもの巨額の資金を市場に供給すると発表。これで一時はダウ平均も戻したのだが結局安値引けで終わってしまった。金融政策でコロナウイルス退治はできない。


それにしてもコロナショックは、40年以上にわたる筆者のマーケットのキャリアの中でも最も不気味に感じる現象だ。リーマンショックの時には少なくともサブプライムローンという病巣が確定され、それを組み込んだ投資商品が世界に拡散した。しかるに今回は目に見えない新型ウイルスが世界に拡散して、人の命を守るための経済的コストが破壊的な規模に膨張している。ヒトとモノの流れが分断され修復も容易ではあるまい。


市場内で投資家不安心理が売りの連鎖を招く状況はリーマン時と同じだ。
しかし市場の構造は激変している。
リーマンショック時にはアルゴリズム売買と高速度取引は発達していなかった。取引所フロアーでの人間同士の売買が主流であった。売り手も買い手もお互いの顔が見える状況であった。ポーカーゲームの如き「心理戦」も展開された。


対して今回はAIの売買を見つつ人間は解説役に回るというシーンが目立つ。
しかも米国大統領はトランプ氏という気性の不安定な人物だ。
12日もいきなり欧州から米国への渡航30日間停止と言い出すとは思わなかった。
それゆえコロナショックの今回の方が相場を読みにくい。


日本の個人投資家像も激変している。
リーマンショックの時は多くの投資家がまだバブルの夢から抜け切れていなかった。しかるに今回は逆張りで日経平均が下がると儲かるタイプのETFが人気商品となっている。更にNISAやIDECOという株の積み立て型の商品が普及して、初心者の参入もようやく増え始めた矢先の出来事となった。まだ株価乱高下に対する耐性がついていない人たちにとっては心臓に悪い状況だ。長期投資と理屈で分かっていても、いざ日経平均1万6千円台などの数字を見せつけられるとパニックになっても不思議はない。金を地味に買い増してきた人たちとは対照的な姿である。


プロの機関投資家にとっても想定外の事態だ。但しプロは皆が損するような状況なら「仕方ない」と「お構いなし」の扱いで済む可能性はある。コロナウイルス発生は「不可抗力の天災」との解釈が成り立つかもしれない。


このような厳しい状況ゆえ東京オリンピックは一年延期でも実施して欲しいものだ。五輪の経済効果がしばしば引き合いに出されるが、計量化し難い国民の高揚感という強力な心理的効果があるからだ。


まずは新型コロナウイルスの正体が解明されワクチン開発が進むことが最重要課題だ。それなくしては市場の制御不能状態が繰り返されることになる。


当面はステイ・ホーム・エコノミー(在宅経済)がキーワードとなろう。

2020年