豊島逸夫の手帖

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米中「冷戦」エスカレート

2020年5月29日

昨晩のNY市場では、引き際になって突如ホワイトハウスが「明日、中国問題に関するトランプ大統領記者会見を開催」と発表。香港自治への介入強化、そしてウイグル族弾圧に対する経済制裁の具体的内容を語ると見られる。

市場は俄かに緊張。ダウ平均がそれまでの前日比プラス圏から一気に144ドル安にまで急落して引けた。金(スポット)は1710ドル台から1720ドル台へ緩やかな上昇軌道。

問題は具体的内容だが、ビザ発給制限程度であれば影響は軽微だが、更に踏み込み一応妥結したはずの米中貿易協議第一段階を白紙あるいは部分的不履行などに及ぶと、かなり甚大なインパクトとなろう。そもそも中国が予定されている米国産農産物を買い入れることができるか甚だ疑問だ。コロナの影響で中国側の購買力が落ちたので、これは「不可抗力」ゆえ免責されるなどの言い訳が考えられる。その先手を打って米国側が動くかもしれない。
基本的に米大統領選挙を睨んでの中国叩きゆえ非難の論調は激しいが、本気で叩けば中国側も反撃せざるを得ず、米中共倒れリスクがある。

中国側の「武器」には「人民元」と「米国債」がある。
人民元の対ドルレートは12年ぶりの安値圏にある。中国人民銀行が人民元安を容認している。すなわち通貨安戦争の可能性をちらつかせているのだ。この為替問題は「第一段階」で手打ちしたはずなのだが蒸し返されるかもしれない。但し人民元安は中国製品の国際競争力を高める一方で、中国からのマネー流出を誘発するので中国側としても本音は望むところではない。

次に中国は世界最大の米国債保有国だ。一位の座を日本と中国で争っている。かなり僅差ゆえ一位、二位は頻繁に入れ替わっている。いずれにせよその巨額の保有米国債の一部でも売りに出せば債券市場は大混乱。ドル金利は急騰。株は暴落という負の連鎖を引き起こしかねないリスクを孕む。中国側にとっても「劇薬」だ。「米国債売却をちらつかせる」程度であろう。

金に関しては米中対立が激化すれば上昇要因となる。
特に香港・台湾問題、南シナ海の緊張などが同時進行的に悪化すれば金市場も反応するであろう。

なお、人民元安が進行すると人民元建ての金価格が為替要因で上昇して、金買い控え、売り戻しを誘発する可能性がある。一方、欧米市場では人民元安=中国からの巨額マネー流出の連想で、株が下がり金が上がるシナリオもある。人民元の動きからは目が離せない。

2020年