豊島逸夫の手帖

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総合取引所、大阪にオープン

2020728

金、農産物の商品先物と株価指数先物取引を一体化、つまり同じ取引所で売買できるという総合取引所が大阪にオープンしました。原油先物は東京に残すという妥協案で成立したので、金先物は大阪、原油先物は東京という極めて不自然な結果になっています。

この総合取引所がメディアでは話題になっていますが私は懐疑的です。

そもそも総合取引所は海外では当たり前の話なので日本は周回遅れ。今更日本に作ったところで海外の投資マネーがわざわざ日本で、それも円建てで売買することは必然性もなく現実的に無理筋です。アジア時間帯ならシンガポール、香港、上海でいくらでも取引できます。英語が不自由で居住コストも高い日本で売買する必要がありません。最近香港危機で日本に国際金融市場機能を誘致との動きもありますが、日本には国際感覚を持ち英語を駆使して売買を行う人材が圧倒的に少ない。民族的にもそういうことは不得手です。日本人はプラント建設にようにプロジェクトチームでじっくり作り上げる仕事に向いている民族です。例えば欧州でも目先が効く売買はスイス人、マネジメントはオランダ人。それぞれ得意分野に特化しています。

更に日本の金先物市場もお粗末です。最近も新聞で派手に広告を打っていた商品先物会社が、過去5年間不適切な内部行為があったことが発覚して、その会社の顧客が巻き込まれたばかりです。コンプライアンスのレベルが低い。商品先物の顧客層も縮小傾向。実は米国でも同じような状況から商品先物会社が次々に大手投資銀行に買収されていったという経緯があります。実例としてはシアソンという商品取引会社がリーマンブラザースに買収され、シアソン・リーマンとなり、やがてシアソンの名前が無くなってリーマンブラザースの一部に同化してゆきました。日本でも今後例えば三菱コモディティーズとか住友コモディティーズのように系列化してゆくと見ています。コモディティーズは今後の成長部門として見込めるので、大手金融資本は優秀な「商品」の専門家を取り込んでゆくでしょう。商品先物会社でも若手に熱心で優秀な人材はいます。

ただその業界再編には5年以上かかると思われます。それまで総合取引所が国際的取引所の激しい競争の中で生き残れるか。分かりません。

そもそも日本には商品先物関連で悪徳商法の事例が多かったという歴史があり、ヘッジを含め本来の商品先物のニーズが希薄です。一般サラリーマンや主婦が商品先物会社の敷居を跨ぐことは心理的に「冒険」でしょう。ハイリスク・ハイリターンが売り物なので、まずリスクに慣れることが大前提。私は金先物の短期売買は個人投資家に「控えよ」と警鐘を鳴らしてきました。私自身、金先物関係のセミナーには一切出ません。良き後輩で家族ぐるみの友人の亀井幸一郎と池水雄一と明確に一線を画すところでもあります。「金は現物を長期保有」が私の信念なのです。

私はスイス銀行時代にシカゴの商品先物会社に出向したことがあります。そこで本来の商品先物の姿を見ました。例えば穀物の生産者は収穫期の9月に一定の価格で売れれば、農家の経営計画も立てられます。そこでシカゴの先物市場で9月ものを売る場合に、買い方に廻ってくれるスペキュレーター(投機家)がいないと売買が成立しません。リスクをとり売買するスペキュレーターは日本では悪いイメージが付き纏いますが、シカゴでは農家の経営を助けるという社会的役割を果たすというプライドを持っているのです。息子の学校のPTAで父の職業を「スペキュレーター」と胸張って言える社会的風土なのです。そのような経験を経て日本の商品先物業界に接した時、愕然としたことを今でも鮮明に覚えています。日本ではそもそもヘッジのニーズが発達していないので、結局単なるマネーゲームの世界になってしまったわけです。

日本の金先物市場も商品先物会社の社長がテレビカメラの前で刺殺されるという衝撃的な豊田商事事件がキッカケで悪徳商法が社会問題化して、当時の通産省がブラックマーケット駆除対策として公設の先物取引所を創設して、天下り先をひとつ確保したという経緯があります。それゆえ創設期からまず監督有りきで自由な売買を促進するという意図が見られませんでした。対してシカゴの先物取引所では商品会社のトップたちが取引所のトップになっています。日本との違いが鮮明です。

なお、今朝もアジア時間帯で1980ドルまで買われ、2000ドル視野です。今日の日経新聞朝刊3面に「金、9年ぶり最高値」の記事が載っています。私は投機相場に警鐘を発するコメントです。もはや未体験の領域でヘッジファンドが空中戦という様相。理屈で説明できる相場ではありません。



2020年