豊島逸夫の手帖

Page3079

金、銀、暴落

2020年8月12日

昨日本欄に「2000ドル超えはスピード違反。調整があって当然」と書いた数時間後に金の暴落が始まった。既に2023ドル(スポット)まで下がっていたが、NY時間では瞬間的に1900ドル割れの局面もあった。結局1910ドルで引けている。下げ率5%。銀は14%暴落した。

とは言え、中長期的には兆ドル単位のコロナ対応経済支援政策が国債増発、増税で跳ね返ってくるのは必至ゆえ、安全資産としての金は買われやすいと昨日も書いたがその見解に変わりはない。
中期価格グラフで見ると天辺がやや下がった程度で基本的に右肩上がりだ。

さて、昨晩の金暴落のキッカケはロシアのワクチン世界初の認可との報道だった。結論から言えばデータ不足など明らかでかなり眉唾。しかし株式市場はいいとこ取りするので歓迎した。更に他のワクチン開発にも楽観論が拡大。「いずれワクチンでコロナは終息するであろう」との見解が株価を支え、金には売り材料となった。
加えて米議会で紛糾中の追加経済対策がいずれ合意されるとの見方に基づきドル金利が上昇。外為市場ではドル高気味。金は売られる市場環境になった。これが昨晩の展開。

引け後にバイデン候補が黒人系女性上院議員ハリス氏を副大統領候補に指名との報道が流れた。実はこの二人、民主党候補を決める討論会では激しく罵り合った経緯がある。しかしこの際、水に流して民主党政権を目指すことで合意したと見られる。既に優勢のバイデン候補には追い風。しかしバイデン氏は株売買益への課税を強化の方針だ(トランプ氏は同課税を減税の方針)。それゆえ株式市場は複雑な思いだ。株にとって良いか悪いか意見は割れる。ただトランプ相場がリセットされることに不安を抱く人も多い。金には総じて買い要因になる可能性がある。

なお、金が下がったとは言え、依然史上最高値水準。総じてウォール街でも買い気は衰えていない。バブル的に急騰を続けてきたので「健全な調整」と見る向きが多い。利益確定売りに走る人もいれば、下がったところで新規参入する「出遅れ組」もいる。

ギリシャ危機当時の史上最高値1923ドルに比し、今回はまずコロナを始め様々な理由が同時進行的に複合要因になっている。日替わりメニューの如く新たな要因が連日噴出してくる。更に前回は先物投機主導であったが、今回は金ETF主導。投機マネーと長期マネーが同居している。ロビンフッターと呼ばれるミレニアム層中心の初心者個人投資家の参入も見逃せない。彼らが束になってくると市場も無視できない存在となる。自粛で時間を持て余しゲーム感覚でまず買いから入る。危なっかしくて見ていられない感じだ。かくして市場の構造が変わっているのだ。参加層に深みが感じられる。これも金ETFあってのこと。従ってこれで上昇トレンドの終焉ではない。逆V字型ではなく逆U字型の相場展開と見ている。逆W字型もあるかもしれない。

 

2020年