2020年12月15日
今日の原稿はゴルフに興味のない人は読み流してください。最低限のゴルフルールを知らないと、昨日の渋野日向子選手の大健闘の意味は分からないからです。私はワールド・「ゴルフ」・カウンシルと言われたほどゴルフ好きなので。米・加・豪などの大手金鉱山に出張するたびに、現地で朝8時から午後3時まで会議。その後午後4時から午後8時までゴルフ、そしてディナーというサイクルを繰り返していました。僻地の金鉱山は従業員施設としてゴルフ場を持つところが多かったのです。ゴルフバッグを担いで海外出張の日々。年間100回のゴルフが普通でした。手のひらにはゴルフ「たこ」ができて。そもそもWGCに入社した年の全体会議がフロリダ州のゴルフ場兼コンファレンス施設でしたから(笑)。今ではすっかり変わりましたけどね~~。
さて本文。
日本人初の全米女子オープン優勝はならなかった。
しかし渋野日向子選手が優勝を逃したというより、時に体感温度が氷点下という逆境で、耐えに耐えて4位を死守したことを称えるべきだろう。冬の極寒の気候でのプレーに慣れている韓国人選手が結局1位、2位に入ったことは偶然ではあるまい。
筆者も昨晩は、NY相場モニター画面と全米女子オープン中継画面の両睨みの一晩を過ごした。
日本では力感溢れるドライバーショットなど、アスリート型ゴルフと「シンデレラ・スマイル」のユニークな組み合わせ感が注目を浴びるが、昨晩は全く違った姿を見せた。
豪雨直後で打ったボールには泥が付き、それを拭くことは許されない厳格なルールが適用された。「あるがままに打つ」というゴルフの基本を全米女子オープンは頑なに守り続けている。選手の立場では、ボールのどの面に泥が付いたかでショットの飛距離・方向性が大きく違ってくるが、打つ前には読み切れない。しかも低温で身体は思うように動かない。飛距離では今回の全参加選手の中でも中くらいの渋野選手は、首位を争っていた同伴競技者にドライバーショットで20~30ヤード置いて行かれていた。それでもアプローチやパターで凌ぎまくり、現地の米国人コメンテーターは「小技名人のシンデレラ」と評していた。日本では「小技が苦手」とされていただけに成長ぶりがうかがえる。そしてここに、筆者は渋野選手が持つ「トレーダー」としてのポテンシャルを見た。
トレーダーの真価が問われるのは、ロスが重なる逆境に置かれた時だ。うまく相場の波に乗った時に稼げるだけ稼ぎ、逆風が吹けば、ひたすら耐え続ける。これがトレーダーとして成功する極意と言える。とは言え、言うは易く行うは難し。こればかりは自らが胃を痛める体験を積まないとリスク耐性は醸成されない。
全米女子オープン最終日に逆境に置かれた渋野選手は、まさにトレーダーの顔を見せていた。
さすがに「スマイル」を見せる余裕もなく、とは言えキリリとした表情。スコアでは2日目に好調の波に乗った結果の最終日4アンダースタートという「貯金」も使い果たし、一時は「イーブン=プラス・マイナス・ゼロ」にまで沈んだ。それでもトップ5には残る好スコアだ。最後の18番ホールでロングパットを決め、バーディーフィニッシュで締め、1アンダーで収めたところにトレーダーとしての資質を見た。通常女子プロゴルフで優勝ラインと言えば、10アンダーなどが珍しくない。しかし昨日は優勝が3アンダーでアンダーパーが僅か4人という厳しい戦いだったのだ。
将来、万が一ゴルフをやめるようなことがあれば、トレーダーとしてリクルートしてみたいと思った。よく渋野日向子選手は「何かを持っている」と言われる。彼女のような明るいキャラがトレーディングルームにいるだけで、殺伐とした現場の雰囲気も一変するのではないか。他のトレーダーのモチベーションも高まるであろう。トレーダーは一匹狼とのイメージが強いが、実はチームプレーが成果を決める世界なのだ。
「チーム・しぶこ」の夢を抱きつつ、昨晩は現実の相場モニター画面の世界に戻っていった。