豊島逸夫の手帖

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コロナ世界不況の足音、金は調整入り

2020年2月26日

実は米国のコロナウイルス対策も日本並みとの実態が明るみに出た。これまでの楽観論で覆い隠されていた弱点が露呈。ダウ平均は2日で1800ドル超の急落を演じた。

そもそもこれまで米国の感染者数が少なかったのは、迅速な検査分析が行われなかったことが理由との指摘が市場の不安感を誘発したのだ。韓国では3万5千人を検査して900人の感染者が確認された。しかし米国のコロナウイルス検査分析能力は1日で50から100と大手製薬会社幹部が発言したことがマーケットでは話題になった。結局CDCの受け入れ能力には限界があるのだ。

その結果、既に米国内で感染が拡大しているが確認できていない可能性がある。特に米国内に散在する中国人、韓国人、イラン人のコミュニティーでの集団感染が危惧される。このような実態に対してトランプ大統領は、大統領選挙を視野にコロナウイルス対策の経済委縮効果を嫌い、後手に廻ったとの指摘が市場には流れた。

そこでCDCは定例記者会見で、まず米国でのリスクは未だ低いとした。しかし「とは言え米国内でパンデミックとなることは、if(もし)ではなく、when(いつ)の問題だ。」との発言が見出しとなり市場を独り歩きした。ワクチン開発も「来年の発生には間に合う」との見通しである。

そこでCDCは国民に「集会自粛、休校、テレワークによりコミュニティーで備えて欲しい」と促した。米国保健福祉省長官が「医療の現場ではマスクが3億枚必要。」との発言も見出しで流れた。市民はマスク買いだめに動き、ネットでは不足気味のマスクが高値で売買されている。

エコノミストの会議で「これだけ皆が集まるのは今年これで最後かも」との呟きも聞かれた。

これまで対岸の火事で切迫感に欠けていた米国の対応は、結局日本とさして変わらないレベルなのだ。ただCDC(米国疫病予防管理センター)という司令塔が米国には存在する。

そこで市場は週3回行われるCDC定例記者会見での質疑応答に注目することになる。

今後は米国内感染者増加数と米国10年債利回りの相関が関心を集めることになりそうだ。仮に死者が出ればドル金利急落というシナリオが意識されている。

25日のNY株式市場も債券市場が発する異音にアルゴリズム売買が敏感に反応する展開となった。一時は米10年債利回りが1.3%台まで急低下して、ダウ平均下落が加速する場面もあった。

寄り付きこそ170ドル超の反発で始まったのだが、あとは一貫して下げ基調。終わってみれば878ドル安。

米国経済成長率が1~3月期は1%程度との見方も出てきた。コロナウイルスが仮に拡散しなくても、その予防措置となる集会、外出、旅行を控えることが経済を委縮させる。2月ミシガン大学消費者信頼感指数は事前予測99.5を上回る100.9と発表された。しかしコロナウイルス米国本格上陸となれば、これまで底堅かった個人消費も影響を受けるは必至だ。2月リッチモンド製造業指数も事前予測13を大幅に下回るマイナス2となった。セクター別でも特にエネルギー関連の需要が急減するリスクが懸念され、同セクターのハイイールド債が売られている。

更にネバダ州民主党党員集会で反ウォール街のサンダース候補が圧勝したことも、株価売り要因として無視できない。

外為市場ではドル金利急落がドル安を誘発した。

日本が国内感染拡大国として世界から警戒された時期には円売りが顕著であったが、米国へ波及となると米ドルが売られる。そこに金利差要因も加わって110円大台攻防となった。安全通貨は米ドルか円かの選択も今後の日米コロナウイルス対応と展開が重要な要因となりそうだ。これまでの外為の法則にはなかった新たな変数である。

なお、金はいち早く調整局面に入った。今週1700ドル大台接近したところから利益確定売りが始まり、株急落にも関わらず1630ドル台まで沈んでいる。株の損失を補填するために金の益出し売りが出やすい市場環境でもある。高値で需給はジャブジャブの状態もボディーブローのように効いている。これまでの急騰がバブルの匂いも伴うスピード違反気味ゆえ健全な調整局面と言えよう。安全資産は米国債一極集中傾向が更に強まり、ドル金利には下げ圧力がかかりやすい地合いである。

なお、本日読売新聞に「コロナショック、国内金価格40年ぶりの高水準に」と題して寄稿。

産経新聞では一面「国際市場の楽観論に冷水」と題する記事にコメントしている。

 

 

2020年