豊島逸夫の手帖

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パウエルマジック、金市場でも

2020年6月16日

13日の日経新聞朝刊マーケット面「金堅調、景気リスクを再認識、低金利長期化追い風」と題する記事で「(パウエル氏は)あと2年間は金が大きく下がらないとお墨付きを与えたに等しい。」とコメントした背景について一言。

前回のFOMCでFRBは少なくとも2022年までゼロ金利政策を維持する方針を発表した。同時に発表されたFRB経済見通しでもFOMC参加者ほぼ全員が2022年の金利水準を0%と予測している。それゆえ金利を生まない金には追い風が2022年まで続くというわけだ。

そのパウエルFRB議長は株式市場でも、対コロナ・金融緩和策の「目玉」とも言える「社債購入」で株価を2回引き上げたことになる。

まず4月に、社債購入にあたり低格付け債まで買い取ると異例の方針を示した。「禁じ手」にまで踏み込む姿勢を見せて、至れり尽くせりの金融緩和政策を訴求した。株式市場は好感。
但し詳細までは発表しなかった。
しかし「アナウンスメント効果」により社債市場は活況を呈し、新規社債発行が相次いだ。

アマゾンは3年債で年率0.4%という歴史的低水準のクーポンで100億ドルもの資金調達を行った(米国3年債利回りが0.2%台である)。ほぼ瞬間蒸発の売れ行きでイールドを求める緩和マネーの貪欲な投資姿勢も印象に残った。

社債市場は歓迎を通り越し過熱化。破産したレンタカー大手のハーツ社が昨年11月に発行した9億ドル相当の社債(表面利率6%)は、遂にクーポンを1回も支払うことなく債務不履行となった。それでも投機化した社債市場には買い手が絶えない。

「パウエル議長は殆ど何も語らず、社債市場の目詰まりを解消させた。」とされ、パウエルマジックと言われた。

そして昨日16日、FRBはリリースで社債購入プログラムの詳細を正式発表した。ウイルス第二波懸念で寄り付き後、ダウが700ドル以上急落していたが、この発表で一気に前日プラス圏に浮上。市場の流れを変える絶妙のタイミングとなった。
社債ETF買い入れから、流通市場での個別社債買い取りまで、対象を拡大したことが特に好感された。実はこの程度の内容は想定されていたのだが「具体的な正式発表」のインパクトは強かった。
結果的にパウエルFRB議長は「社債購入」で2回株価を引き上げたことになる。これもパウエルマジックと言えよう。

マーケットは「新たな追加緩和」にばかり目が行きがちだが、既に発表された緩和政策が改めて材料視されることもあるのだ。

 

2020年