豊島逸夫の手帖

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ヘリコプターマネーと金

2020年3月26日

昨晩NY金は1575~1631のレンジで推移。1610ドル台で引けた。2兆ドル規模のコロナ緊急救済予算(景気対策予算とは言わない)には一人1200ドル(約13万円)の現金給付が盛り込まれる。ヘリコプターから現金をばら撒くイメージでヘリコプターマネー(略称ヘリマネ)と呼ばれる。具体的には日本の事例が引き合いに出される。財務省が増発する国債を日銀が量的緩和でかたっぱしから買いまくるという「財政ファイナンス」のことだ。日銀は無限にお札を刷り続けることが出来る。勿論「節度ある金融政策」が前提だが、アベクロ(安倍首相、黒田総裁コンビ)はアベノミクス実現のため粛々とおカネをばら撒いてきた。更にFRBも量的緩和を再開。ECBも追随。

そもそも量的緩和は従来の経済政策論では禁じ手とされてきたが、今回のコロナショックでは、まず米国民の生活を守るという錦の御旗のもとに正当化される。長期的には通貨価値が薄まることになるので、いくらでも「刷れるドル円ユーロ」に対して絶対に「刷れない金」の無国籍通貨としての価値が重視されるわけだ。このように今回の金高騰には深く重い経済的背景がある。筆者の周辺でも日銀OB(元通貨の番人)がやたらに金を買いたがる。考えさせられる事例だ。

さて、本日産経新聞に寄稿した。元原稿は以下の通り。

新型コロナウイルスの影響で金が「安全資産」として世界的に買われ、日本国内の金価格も40年ぶりの高値をつける場面が見られました。そこで、将来の不安に備え「平時」に買っておいた金を、「有事」に売って凌ぐ動きも見られます。特に、株大暴落で大損を抱えた投資家たちが、高値の金を売って利益を捻出して埋め合わせているのです。これぞ「有事の金」の真骨頂と言えましょう。

かくして有事にやむなく金を売る人たちは、金を見切ったわけではありません。金の有難みを身をもって体感したのです。それゆえ、金が下がると、買い直す事例が多く見られます。

リーマンショックの時も、全く同じ現象が見られました。直後には株の損を埋めるために金が売られ金価格は下がったのですが、それが一巡すると、俄然金が買い直され、ギリシャ危機の時に史上最高値を記録したのでした。

そもそも金の価値とは貴金属としての「希少性」にあります。有史以来、採掘された金の総量はオリンピック仕様の水泳プール4杯分しかありません。腐食せず価値が残るので「破綻」することがなく、紙くずになるリスクとは無縁なのです。

その金を、近年は誰が買っているのでしょうか。

ずばり中央銀行です。特に中国、ロシア、トルコ、ポーランドなど新興国が外貨準備としてドルの保有を減らし、金を増やす傾向が強まっています。トランプ大統領のコロナウイルス・リスク管理能力に不安を感じた国が、米ドルに対して不信任票を投じている如き現象です。因みに日本国は米国に遠慮して米ドル売り・金買いは控えています。その代わりに膨張している外貨準備の大半を米国の借金証文である米国債で保有しているわけです。

さて、その金の買い方ですが、ここは注意が必要です。まず信用できる会社を選ぶこと。更に、金価格はニューヨークの先物市場の影響で短期的には乱高下します。それゆえ、まとめ買いは避けましょう。毎月、一定の金額で金を買い積み立ててゆく方法がお薦めです。かくいうプロの私も積立で金を地味に買い増しています。経験的にそれがベストと分かっているからです。

なお、金のデメリットは金利を生まないことです。ところが、最近はマイナス金利で、このデメリットが消えてしまいました。それでも資産運用の主役は配当金や利息を生む株や債券。金は主役の不調時を補う脇役なのです。それゆえ、金の保有も財産の10%程度に抑えましょう。そして、長期保有する金が役立たないことが実は一番良い状況と言えるのです。最近はコロナショックのように役立ってしまう事が多いのですが。

以上

なお、産経新聞ではマクロ経済についてコメントが引用されることが多く、紙上の筆者タイトルも「エコノミスト」とされている。







2020年