豊島逸夫の手帖

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「リスク限定型」投資信託の悲劇

2020年4月9日

コロナショックのような異常な現象が生じると経済・投資の世界でも思わぬ犠牲者が出るもの。
「虎の子の退職金を投資信託につぎ込み大損している。悔しい。なんとか取り戻したい。どうすればいいのか途方に暮れている。」
個人投資家たちからは悲鳴に近い声が聞こえてくる。

特に「リスク限定型投資信託」という名前で販売された投信に退職金をつぎ込んだ人たちの事例は悲惨だ。そもそも「リスク限定型」とは、例えば基準価格が10%下がると、その時点で自動的に償還される。つまり最悪でも10%以上の損失は被らないというセールストークだ。これが退職金運用などの慎重派には受けた。

この2月にも同型の投信が発売された。ところがその直後にコロナショックで発売後1か月も経たないうちに10%の下限を超え償還されてしまったのだ。アッという間に虎の子の退職金の1割が蒸発した。これはショックであろう。しかもその後、株価は反騰しているのだから待てば損せずに済んだはず。でも商品設計を理解して買ったのだからと理屈では分かっていても心情的に納得できない。

この事例をマクロ的視点で見ればこうなる。
視界不良のコロナショックの中でただ一つ確かなことは、世界中で誰一人としてコロナウイルスの先行きを見通せないことだ。
その中で株式を売買しているのは海千山千のヘッジファンドたち。
そこにのこのこ退職金の多くを失った日本人個人投資家が参入してくれば、それこそ「飛んで火に入る」なんとやらである。

困ったことに外出自粛ゆえ、時間を持て余しネットで様々な投資情報をピックアップしている。良心的な情報から明らかに怪しいネタまで並列にネット画面に表示されると判断が出来ていない。
特に生産部門に長く勤務していた人たちはマネーとは異質の世界にいたので、今の異常な相場が孕むリスクを実感として感じていない。
それでも「なんとか損失を取り戻さないと老後の生活設計を練り直さえねばならない。」と焦る。
非常事態宣言下の国の危うい景色である。
こういう苦い体験をしてきた人たちが現物の金を手にすると、一瞬言葉を失い「こ、こ、これが、真の価値だ!」と心の中で叫ぶものだ。
金の本当の価値が直感的に分かる人には、苦い投資体験を持つ人が少なくないのだ。

なお、今回でこのブログも3000回となった。始めた頃は「ブログ」なるものの「はしり」であった。そして今はコロナショック真っ只中。感慨深い。

2020年