豊島逸夫の手帖

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雇用統計、世紀の大誤算

2020年6月8日

最初は誤報かと思った。先週金曜発表の米雇用統計。

非農業部門新規雇用者数が事前予測マイナス800万人のところ、蓋を開けてみればプラス250万人!市場は毎週発表される新規失業保険申請件数の激増にばかり目を奪われていて、その裏で再雇用が増えていることを見落としていた。

株はダウ1000ドル近い暴騰。これくらい株が上がると、さすがに金は売られる。一時はスポットで1670ドルまで急降下。と言うか、その程度で下げ止まったとも言える。その後1690ドルまで反騰中だ。
結果的に金の底堅さを示す出来事になった。

なお、今回の雇用統計データに関しては、その正確性に疑義が呈されている。特に米国特有の「一時帰休」者を失業者と見なさず、雇用されているとして扱う事例が多かったようだ。これは「失業者」の定義の問題。

更に、唐突に雇用関連の数字が急激に動いたので、統計収集過程で混乱があったとの指摘もある。そのドサクサに乗じてトランプ大統領が自分に不都合な数字を隠蔽したとの「陰謀説」まで飛び出した。しかもその発言者がノーベル賞経済学者のクルーグマン氏でツイートされた。しかし同僚エコノミストたちから「労働統計局はそんなにいい加減なところではない。統計プロの集団だ。」との反論が噴出。炎上した。クルーグマン氏も謝罪している。
それでも労働統計局は失業率の誤差は5%程度と認めている。

なお、失業者の事例としては特別失業給付金の方がまともに復職して得る給与より多いので、意図的に失業者扱いに留まる人が少なくない。サービス業では復職するとコロナ感染リスクに晒されるので敢えて失業を選択する人もいる。

いずれにせよ次回の雇用統計が非常に重要になった。今回の統計を裏付けるのか、はたまた失業者数が再び大幅に増えるのか。その根拠は?市場も注目せざるを得ない。

更に、このような良い雇用統計の数字が出ると、もはや追加緩和は不要ではないかとの議論が出ても不思議はない。
財政出動の方は既に未曽有の国債増発が不可避であり、共和党が過半数を占める上院では財政赤字膨張を防ぐため、これ以上の財政支援は見送るべしとの見解も出よう。

一方、金融政策は今週FOMCがあるのでパウエル議長が今回の雇用統計をいかに評価するか。これまでパウエル氏は米国経済の見通しを悲観的に語って追加緩和の必要性を示唆してきた。しかしそれと反するような良い数字が出たのでパウエル氏の反応が注目されるのだ。
そもそもコロナ対応のパウエルバズーカと呼ばれる未曽有の規模の量的緩和はその大半が未だ実施されていないが、市場は先取りして織り込んできた経緯がある。
何かと後を引きそうな雇用統計であった。

2020年