豊島逸夫の手帖

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ワクチン開発、市場は歓喜から冷静な楽観へ

2020年11月10日

ファイザー社が開発中のコロナワクチンの予防有効性が90%超との発表で、9日のNY市場は寄り付き前から時間外でダウ平均が1700ドル超急騰。マーケットには「歴史的な朝だ」との声が流れ歓喜に包まれた。
金価格は瞬間的に1850ドルを割り込み、100ドル幅で暴落と言ってよい状況(以前から本欄で述べてきたようにワクチン開発進展で金が下がるなら歓迎すべき事態と感じる)。
債券市場では米10年債利回りが0.7%台から0.9%台に急騰。心理的節目とされる1%を窺う気配だ。
安全資産とされる債券と金が大きく売られたものの、外為市場では「低リスク通貨」とされるドルが買われ、103円台から105円台へ円安に転換。リスクオンとも言い難い面もある。

予防有効性についてはインフルエンザワクチンが40~60%程度、FDA(米国食品医薬品局)の承認の目途が50%超とされるので、90%超はこれまでの基準を遥かに上回る。
緊急テレビ出演したファイザー社社長は「ゲームチェンジャーだ(世の中が変わる)。」と興奮気味に語った。実はファイザー社ワクチンは大統領選挙中に政治的問題となった経緯もある。同社が大統領選挙直前にワクチン承認の予定を10月末と設定したからだ。「拙速ではないか。政治的意図があるのでは。」との観測が市場には流れた。それだけに溜飲を下げたかの如き話し振りとも見られた。

その後、株式市場では当初の歓喜は徐々に「冷静な楽観」へと変化してゆく。ダウも上げ幅を縮小して834ドル高で引けた。金は1870ドル台へ反騰。
市場をマクロで見ても楽観か否か気迷い症状も見られる。

市場では今回ファイザー社が発表したデータの精査も進んだ。
今回発表されたデータでは2回目接種後7日間有効とのことだが、効果持続期間はインフルエンザワクチンのように数か月なのか、天然痘や麻疹のような生涯に亘るのか不明である。更に年代・人種・感染の重篤度ごとのデータも未だ出ていない。
副作用など安全性については2か月のモニタリング期間が設定され11月第3週に結果が判明する。その後FDAの承認を経て年内に5000万回分(2回接種なので2500万人分)の生産が予定される。2021年には13億回分の生産を見込む。

流通には厳しい冷凍保存環境も必要とされ米国一般市民に接種されるのは2021年夏頃となりそうだ。その間国民がどこまで我慢して感染増加を抑え込めるか。市場には不安感も根強く残る。

なお、ワクチン開発の期待が高まれば地域的ロックダウンも説得、実行しやすくなろう。

これまで市場のテーマであった2兆ドル規模の追加コロナ経済対策案の議会審議も緊急性が薄まるとの見方もある。

結局感染拡大とワクチン開発のスピード競争になりそうだ。そこにはファイザー社以外のジョンソン&ジョンソンやモデルナなど他社の進展も含まれる。

なお、トランプ氏は突如国防長官を解任するなど「院政」体制で徹底法廷闘争の構えを崩していない。対するバイデン氏は地元デラウェア州から国民に向けて演説。ワクチン開発が進展してもまだ気を抜かずマスク着用を怠らぬように呼び掛けた。マスクを着用せず強がってきた現職との対比が鮮明だ。
とは言え「政権移行チーム」も大統領就任日の1月20日までは予算も官僚も使えない。トランプ氏がレームダック化してゆく中で政治的空白は避けられない状況だ。上院選挙もジョージア州で2議席の決選投票が1月5日に行われるのでそれまで選挙結果は確定されない。政治リスクがいつ再噴火してもおかしくない状況だ。

ワクチン開発進展の祝賀ムードと感染拡大警戒モードの狭間で選挙の心理的呪縛からも解放されず市場は揺れている。

2020年