豊島逸夫の手帖

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トランプ派、金本位制論者のFRB理事候補

2020年11月18日

現在空席であるFRB理事ポストの候補者ジュディ・シェルトン氏の議会承認が遠退きつつある。
そもそもトランプ陣営の経済顧問を務めた人物で、露骨な政治介入と共和党内からも承認には造反議員が出ているのだ。

市場が特に懸念したのは、同氏が金本位制論者で、中央銀行の存在を軽視する傾向が見られることだ。コロナのような経済危機が勃発した時、金本位制では弾力的金融政策運営ができない。通貨供給量は金の公的保有量を超えない範囲に収めねばならないからだ。

そもそも現在の管理通貨制度は中央銀行という人間の集団に金融政策を委ねるので「性善説」に基づく。対して、金本位制は人間の支配が及ばぬ希少金属の本質的価値を通貨の裏付けとするので「性悪説」とも言えよう。基本的に金本位制復帰などあり得ないが、リーマンショック以降管理通貨制度のほころびも露呈して、国際基軸通貨ドルへの信認は薄れている。そこで、特に新興国の中央銀行が外貨準備としての公的金保有を増やしてきた。

なお、シェルトン氏は特に中央銀行の量的緩和に否定的である。
現実的には、万が一同氏がFRB理事になっても政策運営への影響は極めて限定的だろう。

とは言えFRB理事ポストは対コロナ金融支援策の司令塔である。FRBが民間企業に融資して、財務省がバックストップ(債務不履行リスクを負う)役となる、コロナ経済政策の目玉にも直接関与する。

議会での承認は僅差となる状況で、特に上院で50-50になった場合には、最後の一票をペンス副大統領が投じることになる。但し現時点での票読みではその可能性は極めて低くなり、市場は議会不承認を見込んでいる。

なお、同じFRB理事現職のブレイナード氏は財務長官ポストとして有力視される。FOMCでもハト派なので市場は歓迎だ。同ポストの対抗馬としてエリザベス・ウォーレン氏の名前も挙がる。バイデン氏が民主党内左派にかなり配慮せねばならない状況になれば、可能性はある。大統領選挙後に民主党内の亀裂も顕在化しているので市場も気にはなる。ウォーレン氏は金融規制強化を唱えているからだ。

残る最大人事は2022年に任期を迎えるFRB議長ポスト。留任か交代か。未だ先の話だがここでもブレイナード理事の名前が挙がる。民主党員のイエレン氏復職というサプライズシナリオも囁かれる。

かくして金融・財務関係人事(いずれも女性)がウォール街の話題になっている。

さまざまなシナリオを視野に、米金融証券業界からの政治献金は意外にも共和党より民主党の方が多い。
米国複数メディアは、大統領選にからむ政治献金が民主党に7440万ドル(約77億円)、共和党に1810万ドルと報じた。
意外にもサンダース氏への政治献金が多いとされる。規制強化に備えた一石であろう。

2020年