2020年8月3日
ついにNY金先物が2000ドルを突破しました。
但し、この2000ドル突破は説明が必要です。
スポット価格では高値が1987ドルでした。
同じNY金でも中心限月(最も売買が多い月)12月では2000ドルを超えましたが、期近8月では高値1981ドルに留まっています。
これまでは中心限月が8月でしたが、これが12月に移行する時期に2000ドル超えが生じたのです。8月ものと12月ものの間では値差が20ドル近くありますから、中心限月が移行するだけで20ドルはいきなり上がったことになります。
では、果たしてどの基準で史上最高値とするのかという問題も起こります。
これがメディアにより異なります。
日経新聞ではNY金中心限月を採用しているので、早々と2000ドル突破記事を載せたわけです。
8月1日の日経新聞(朝刊)の見出しは「NY金、初の2000ドル超え 急騰に警戒感も『ドル代替』で上昇」。
筆者は「高水準に積み上がった金ETFの利益確定売りには警戒も必要だ」とコメントしています。
需要面では中国・インドの実需が激減して、金ETFの現物需要が激増しているというのが現在の需給状況です。中国・インドはロックダウンや高値買い控え、高値売り戻しの影響をもろに受けているのです。
問題は同じ現物需要でも金ETF購入者の半分くらいは短期売買を目的としており、必ずしも「金を保有したい」と思う人ではないのです。値動きが良ければ金でも何でも構わないという投機家です。
一方、中国・インドの実需は高い文化的金選好度により裏打ちされています。子供のため、孫のため、嫁ぐ娘の持参「金」としてなど、さまざまな人生の節目に金あるいは金製品を贈る習慣が根付いているわけです。こういう親が子供を思う気持ちというのは景気動向の影響を受けません。懐具合が苦しくても可愛い娘のためには「気張る」のが親の甲斐性でしょう。GDPなどに動かされないので、経済学的には「需要の所得弾力性が低い」という言い方をします。
この長期保有のコアの需要が激減しているのに価格は史上最高値というところに、今回の金高騰劇の「死角」があると言ってよいでしょう。
とは言え、金ETF、先物主導で金価格の足元での上昇基調は変わらないと思います。瞬間タッチで高値更新もあるでしょう。
個人投資家にとっての問題はメディア的発想で「2000ドル突破」なのかではなく、中期的に持続可能な価格水準は何ドルなのかでしょう。筆者は中長期的な需給均衡価格は1500ドル程度と見ています。5年後にその程度の水準まで下落しても不思議はないと思います。しかしその過程では2300ドルまで続騰するかもしれません。これまでの史上最高値1923ドルを超えてから、未知の海域で海図なき航海を強いられているので、市場関係者も後追いで予測を切り上げています。ゴールドマンサックスは1800→2000→2300と予測を上方修正しています。要は真空地帯に入ったのでプロも読めないということです。色々な価格予測がこれからも飛び交うでしょうが、それぞれが確たる根拠があるわけではありません。筆者も中長期的な予測には根拠がありますが、短期的予測は「言った者勝ち」みたいなものです。
振り返れば金価格が1100~1200ドルの頃、本欄では繰り返し「底値圏」、「底値圏」と書きました。でも最安値までは特定できないと書きました。その後「2020年には7000円説」を6年ほど前からセミナーで繰り返してきました。そして今は「高値圏」だが最高値は特定できないという状況です。ただ需給均衡価格水準が切り上がっており、今後も切り上がってゆくことは間違いないでしょう。年間金生産量は頭打ち、然るに中国・インド・中東は長い目で見れば経済成長とともに金購入を増やしてゆくからです。金が長期的に下がるシナリオは中国・インド・中東の人たちが金を嫌いになるということでしょうか(笑)。