豊島逸夫の手帖

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世界同時株安、金1700ドル接近も

2020年2月25日

世界株安連鎖。元凶はコロナウイルスだ。今後の展開を読める専門家は世界中に誰一人いない。この不透明感がリスク資産としての株を売る最大要因と言える。同時に視界不良の地合いは金買いを誘発する。一時は1700ドル大台接近の局面もあった。しかしマージンコールに迫られ、真っ先に現金化のため売られるのも金だ。結局1660ドル前後で引けた。それでもかなりの高値圏。需給はじゃぶじゃぶ。ゆえに先物主導のバブルと言えるが、その金バブルは米大統領選挙まで続きそうである。

さて「日本はオリンピック開催を強行するのか」

新型肺炎感染拡大による世界株安連鎖を受け、ヘッジファンドが問いを投げかけてくる。東京オリンピック開催が危ぶまれる中で中止・延期が決定されれば日本株買いとの読みが透ける。噂で売ってニュースで買うという常套手段だ。

元祖ヘッジファンドのジム・ロジャーズ氏も「災厄は買いBuy Disaster」と常に語る。東北大震災の時も直ちに日本株を買ったと述懐している。

市場を震撼させた週末の新展開は以下の通りだ。

韓国では警戒レベルを最大水準に引き上げた。イタリアではGDPの3割を占めるロンバルディア州(ミラノ)とベネト州(ベネチア)の10都市が地域封鎖された。休校、集会制限、レストラン・劇場の閉鎖が相次ぎ、ミラノではスーパーでの買い占めも見られた。公共交通機関は回避されマイカー渋滞が多発した。感染経路不明が最大の不安要因だ。イタリア株も約5%急落した。スイス・オーストリアはイタリアからの入国監視を強めた。シェンゲン協定暫時棚上げも議論される。

中東でもイランで国内感染が拡大した。パキスタンが一時国境封鎖に動いている。

次はどの国か。市場は身構える。

これまで楽観論が支配してきた米国市場もさすがに不安感を強める。好調が続いたマクロ経済指標だが、直近に発表された2月マークイットPMIは前月比3.7ポイント低下して49.6。これは米政府機関が閉鎖された13年10月以来の低水準だ。それでも総じて米国経済は堅調で、相対的にショック耐性は強いがアジア系住民が多い西海岸では切迫感が強まる。新型肺炎によるサプライチェーン破断の影響として中国からの輸入減を最初に感知するのも西海岸の港湾だ。ネバダ州民主党集会で反ウォール街の最先鋒サンダース氏が圧勝したことも投資家心理を冷やした。

24日のダウ平均は800~1000ドル安のレンジで終日乱高下したが、結局1031ドル安で引けている。

市場が最も不気味に感じることは債券市場で米10年債が1.36%前後まで急低下したことだ。英国国民投票でEU離脱派が勝利した時とほぼ同じ低水準である。2020年の米景気後退は回避され一定の減速に留まるとの楽観論を揺るがす数字だ。3か月財務省証券が1.54%前後なので逆イールド幅拡大が鮮明だ。

それでも利回り低下とは言え、未だプラス金利の米国債にマネー流入は集中する。流動性の点では同じ金市場とは比較にならない規模を持つ。

当然FRB利下げ確率は上昇している。年内3回利下げ説まで顕在化しつつある。しかし金融危機と異なり、疫病危機によるサプライチェーン破断に対して金融政策の効果は限定的だ。

外為市場の景色も変わった。

日本の連休前には日本の国内感染が嫌気され円安が進行した。しかし感染が世界に波及すると、日本企業のレパトリ(海外資産引き揚げ)も意識され円買いとの綱引き状態になった。ドル金利急低下もドル売り要因となる。結局111円台から110円台まで円高が進行した。

総じて新型肺炎3月ピーク、4~6月期には回復基調のメインシナリオがリセットされている。これまでのリスクシナリオとされた長期化シナリオの点検が始まり、市場も織り込み始めた段階と言えよう。

 

2020年