豊島逸夫の手帖

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新型肺炎優先、中国経済6%割れも覚悟か

2020年1月29日

SARSが勃発した2003年の中国GDP成長率は同年4~6月期に6.7%にまで急落したが、通年では10%を維持した。

しかし新型肺炎が勃発した今年は、IMFが年率6.2%を予測している。この数字に新型肺炎の影響は含まれていない。

何より中国経済構造が激変している。2019年には個人消費のGDP成長率への寄与度が2003年に比し倍増して60%水準に達する。

その個人消費への寄与度が極めて高い春節を新型肺炎が直撃した。

1~3月期のGDP成長率が6%を割り込む可能性が浮上している。

特に注目すべきは、習近平国家主席が新型肺炎を「悪魔」と位置づけ、「中国人民は新型肺炎と厳しい闘争」、「中国共産党の強力な指導で感染症との阻止戦に勝利する完全な自信がある」と宣言したことだ。この強力な叱咤激励を受け、中国各地から武漢へ続々「衛生隊」が派遣されている。隊を送り出す「壮行会」では愛国心を強調する決意声明が飛び交う。短期的な経済停滞も覚悟の上で、新型肺炎撲滅を最優先とする党の基本方針が透ける。春節終了後、北京に戻った多くの市民を待つのは14日間の外出自粛だ。閉ざされた空間での生活は消費意欲を削ぐ。投資に関してもリスクと向き合う「アニマル・スピリッツ」が萎えよう。

救いは2003年に比しネット環境が激変したことだ。まずはキャッシュレスの恩恵が効く。娯楽面では中国人に人気のカジノスポットであるマカオに今や閑古鳥が鳴くが、フィリピンが特化してきたオンラインカジノが一躍人気化している。食事宅配サービスも有望だが、配達人との接触を避け「置き配」が選好されそうだ。

勤務面でもテンセントなど大手IT企業では当面「在宅勤務」への切り換えを進めている。

とは言え、ヒトの動きが制限されることで消費には強い逆風が吹く。

更に製造業ではサプライチェーン破断が懸念されることは言うまでもない。

米中貿易戦争で既に疲弊した中国経済が2003年のような回復力を発揮できるか疑問である。

このような緊急事態を受け、習近平氏の号令のもと財政金融政策支援も全開モードとなろう。

早速、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)が動いた。

銀行支店内の衛生管理を徹底。やむを得ぬ店舗休業の場合にはネットバンキングなど代替ソリューションを強化。必要に応じ金融サービス手数料を引き下げ。住宅ローンはクレジットカード返済遅延には柔軟に対処。融資面では医療関係を優先。貸し渋りや融資回収を戒め、金利引き下げには寛容な対応を指示。

1月26日付けの「指導文書」は至れり尽くせりの内容となっている。

普段は「鬼の銀保監会」と金融保険業界で恐れられているが、今回ばかりは「白馬の騎士」を演じているようだ。

この態度豹変は党の危機感を映す現象でもある。

減速する実体経済と政府が繰り出す救済政策のせめぎ合いが市場でも展開されそうだ。

習近平国家主席も当面は安全運転最重視だが、いずれ車のアクセルを強く踏まねばならぬ時期が来る。香港、台湾方面への目配りも欠かせず危うい走行が続きそうだ。

なお28日の市場は株価反転、金は反落して1560ドル台。下げたが依然高値圏を維持。株式市場では引け後発表されたアップルの決算が注目され最高益を挙げたが、中国国内での新型肺炎の影響が未知数。そして本日はFOMC。今回は無風のFOMCとなりそう。FRBがレポ市場で緊急流動性供給を実行中で、これが量的緩和と言えるのではないかとの議論が市場では交わされている。質疑応答でパウエル議長の答えに注目。つまるところ、株も金も傾向的には同時に上がってきた理由の一つがFRBからの流動性供給にあるのは事実だ。但しパウエル氏は、これは量的緩和ではない、経常的資金供給オペだと主張している。

なお中国語に興味ある人には、参考までに銀保監会文書を添付↓。

http://www.cbirc.gov.cn/cn/view/pages/ItemDetail.html?docId=888850&itemId=915


写真は早朝、朝日を横から浴びるガーラ湯沢スキー場。

海抜1000メートル近くのゲレンデで、普段なら1~2月は樹氷で白銀の世界なのだが今年は木の幹が露出している。付近のスキー場の多くはゲレンデに地肌が目立つ。今年のスキーシーズンは2月末で終わりかな。。。去年は5月のGWまで楽しめたけど。

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2020年